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第11話
人生についてない日とついてる日があったりするけど、まさに今日が俺のついてない日だ。それも最高に。
午前中のバイトで財布もスマホも鍵も全部入っているカバンを間違えて持って帰られた。カバンは間違えた人に連絡がつけば戻ってくるだろうけど、いつになるのかわからないので慎吾に相談しようと学校にきてみれば俺と慎吾の受ける授業が休講。
慎吾を探してうろうろしているとある人に呼び止められた。
「ちょっと聞いてるの!?」
今までの出来事を反芻していた俺にその人、山下青葉さんが強い口調で訊ねる。
「はぁ……」
何だっけ……五十嵐さんが俺にかまうのは優しいから?調子に乗るなだっけ……曖昧な返事をする俺に山下さんは余計苛立ったみたいだった。
「佑真が何であなたをかまうのか全然わかんない」
山下さんが真正面から冷たい目で言い放つ。
そんなこと俺もわからない。俺に言うより五十嵐さんに言えばいいことなのに。
というかあれがかまってることになるのか?だとすれば普段どんな接し方してんだよ。
「藤崎くんはあなたが迷惑がってるって言ってたけど、迷惑がってる振りして喜んでるんじゃないの?」
相変わらず冷たい目をしている山下さんを思わずまじまじと見る。
そもそも俺、藤崎にそんなこと言った覚えもないし、迷惑がってる振りをする意味もわからない。
あぁ――雨まで降ってきたな……。
「とにかく佑真になれなれしくしないでよね!」
そう言い残すと降り出した雨を避けるように山下さんは足早に去っていった。
山下さんの背中を見送りながらしばらく茫然と立ち尽くしていた。
彼氏に近づく人は同性でも気に入らないのか……?心理学的に見れば自分だけを見ていて欲しいという深層心理になるのか。所謂やきもち。
深層心理は個人差が大きいとか教授が言ってたっけな。
どっちにしても付き合う人が山下さんみたいになるなら俺には無理だなぁ。五十嵐さんも大変だな……。
「翔?何してるんだ」
「うわっ!」
今まさに考えていた人物に声をかけられて俺は驚きの声をあげた。
「雨の中、傘もささずに何突っ立ってるんだ」
さしていた傘の中に俺を入れながら五十嵐さんが苦笑した。
「あ、いえ……」
山下さんが戻ってくるんじゃないかと気が気じゃない俺に五十嵐さんが怪訝そうな顔をする。
「どうした?」
「いえ何でも。俺帰ります。」
「おい待て」
歩き出そうとする俺の腕を五十嵐さんが掴んだ。
「離してくださ────くっしゅん!」
「お前、結構濡れてるじゃないか、来い」
俺の腕を掴んだまま校舎とは逆の方向に歩き出した。
「どこへ……」
俺の問いかけに五十嵐さんは無言で歩いた。ちらっと慎吾より高くにある五十嵐さんの顔を見上げると、なぜか不機嫌そうだったので黙ってついていくことにした。
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