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第21話 SIDE江角慎吾
翔が帰ってからもう4時間は経つ。
連絡のこないスマホを見ながら俺は何度目かの溜息を落とした。
電話も出ない、LINEも既読にならない。普段の翔なら面倒臭がりながらでも必ず返信はする。スマホを落としたか、気づいていない可能性ももちろんある。
翔は子供っぽく見えても、20歳の成人男性だ。1日くらい連絡がつかなかったところで気にもならない。
だが翔の様子はあきらかにおかしかった。あれは精神的不安や極度の緊張によっておこる過呼吸だ。
五十嵐さんに出逢った時から、時折不規則な呼吸を繰り返す翔が気になってはいたが、過呼吸を起こすほどだとは思っていなかった。
問題なのは過呼吸が治まった後の翔だった。
思っていることが顔に出やすい翔の表情がなく、いつもはキョロキョロと落ち着きのない瞳も、ただ目を開けているだけのように何も映していなかった。
まるで感情がなくなってしまったかのように――。
「帰すんじゃなかった」
苛立ちながら呟いてスマホの発信ボタンを押した。コール音がしばらく鳴った後、機械の音声が不通を告げた。
帰ると言った翔を強くは引き止めなかった。
過呼吸を起こすほどの何かを思い出した翔に話をさせるのは無理だったし、一人になって落ち着きたいだろうなとも思ったから。
だが今は、その事を後悔せずにはいられなかった。
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