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第25話

   目を開けると薄暗い部屋の白い天井が視界に広がった。 首を少し動かすと柔らかな枕の感触が俺を包む。 どこだろう、ここは……何で俺はこんなところで寝ているんだろう、疑問ばかりが頭をよぎる。 わかるのは俺の部屋ではないということだけだった。 首だけを動かし、見渡した薄暗い部屋の中で引きずり込まれるような恐怖に襲われた俺は光りの()すドアへ行きたくて身体を起こそうとした。 「――っ!」 うまく力が入らない身体で大きめのベッドの上を這うように進んだ。 必死で身体を引きずる俺の視界が大きく揺れガタンという音と共に身体を床に打ちつけた。 「翔!?」 目指していたドアが開き、現れた人が驚きながら駆け寄ってくる。 「や……っ」 倒れた俺を抱き起こすその人の顔は逆光で見えない。身をよじって逃げようとする俺をその人は強く抱き寄せた。 「翔、大丈夫だ。落ち着け」 抱き寄せられた腕の中で、その人の透き通るような優しい声が聞こえた。 この声、知ってる気がする。思い出そうと目を閉じると、その人の鼓動が小さく聞こえてくる。 もっと聞きたくて俺は耳をその人の胸に当てた。 「翔?」 その人の声が振動となり鼓動と混ざる。それがすごく心地よくて、さっきまでの恐怖が嘘みたいに消えていた。 「だ……れ……?」 その人を見上げて掠れる声で問いかけると、優しく俺の頭を撫でていた手が止まった。 「俺がわからないのか?翔」 その人の悲しそうな表情に俺の胸は締め付けられた。 俺はこの人を知っている。知っているはずなのに思い出せない自分がもどかしい。 「気にするな」 眉をひそめて考え込む俺をベッドに運ぶその人の声は寂しさを含んでいた。 俺をベッドにそっと寝かせるとその人は何も言わず部屋を出て行ってしまった。 電気が()いた部屋は、もう怖くないはずなのに取り残されたような気持ちになる。 「どうした?」 追いかけようと立ち上がった俺に手にグラスを持ってすぐ戻って来たその人の優しい声に、どう答えればいいかわからず恥ずかしくなってそのままベッドに腰掛けた。 「少しだけでも飲んだ方がいい」 水の入ったグラスを俺に手渡しながら言うとベッドの横の椅子に座った。 水を一口飲むと、渇きを思い出したかのように潤いを求める喉に一気に流し込んだ。 「もっと飲むか?」 「いえ、ありがとうございます」 まだ少し掠れてはいるが、さっきより声が出せるようになった俺からグラスを受け取ったその人の顔に安堵の表情が浮かんだ。

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