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第27話

   佑真さんは優しい。思い出せない俺を責めるどころか、気にしなくていい……と。 でも、俺は佑真さんにあんな悲しそうな顔をさせてしまった自分が許せない。 佑真さんのことだけじゃない、どうしてここにいるのか、どうして医者に診てもらわなければいけない状態だったのか、わからないことだらけだ。 「食べられそうなら、何か食べるか?」 玄関から戻ってきた佑真さんの声が優しい。 「佑真さん……俺……」 「……お前、本当に(おぼ)えていないんだな」 見上げた佑真さんの表情が一瞬驚いた後、寂しそうな笑みを浮かべていた。 だめだ。俺のせいで、俺の存在が佑真さんを傷つける。 ただそばに居たいだけなのに――。 ヒツヨウト、サレテモ、イナイノニ? ふいに頭に流れ込む言葉に鼓動が早くなり、呼吸が浅くなる。 この感じ知ってる……佑真さんに迷惑かけたくない。 「ごめ……なさ……」 そう言うのがやっとで、この場から離れようとドアに向かう俺を佑真さんが抱き寄せた。 「どうしてお前は……気にするなって言っただろう」 逃れようとする俺を強く抱きしめて悪かったと呟いた。 佑真さんの腕の中ではっはっと浅い呼吸を繰り返しながら、聞こえてくる佑真さんの鼓動に少しずつ息苦しさが消えていく。 「佑真さん……俺、知ってるんです。佑真さんの声も、顔も、知ってるんです……なのに……っ」 息を吐きながらゆっくり話す俺をベッドに座らせ、正面にしゃがみ込んだ佑真さんが俺の手を優しく握った。 「俺に迷惑かけるとか思っているんだろうけど、お前がそばに居ないほうがつらい。だから、どこにも行くな」 佑真さんの真剣な眼差しの奥の瞳に暖かく包み込まれるようで笑みがこぼれた。

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