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第37話

 佑真さんと過ごす最後の朝。わかりやすいと言われる俺の気持ちがばれないように細心の注意を払った。 「夕方には帰れると思うけど、翔は?」 1限目から講義のある佑真さんが玄関に向かいながら声をかけた。 「俺もそれくらいには――佑真さん、その、ありがとうございます」 後を追った俺が少し躊躇(とまど)いながら佑真さんの半袖のシャツを掴むと振り返った佑真さんが俺の頭をぽんと撫でた。 俺の好きな優しい笑顔で。 もう十分だ。佑真さんからいろんなことを教わった。俺が兄さんとのことを思い出しても落ち着いていられるのは佑真さんがいてくれたから。 今までもこれからも俺の心の支えになってくれるのは佑真さんしかいない。 行ってくるという佑真さんの背中を見送ると、俺はその場に崩れ落ちた。俺、ちゃんと笑えてたのかな。 「ごめん、ごめんなさい、佑真さん」 もう会えないその人の気配が残る玄関から動けず何度も呟いた。

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