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第45話
家に着くと、涼香ちゃんが帰っていてエアコンの効 いたリビングが外の暑さを忘れさせてくれた。
「どこ行ってたの?」
淡 い水色の涼 しげなワンピースを着た涼香ちゃんがスマホから目を上げて俺を見た。
「湯畑!すっごく綺麗だったよ」
思い出すともう一度あの景色を見たくなる。
「私達は子供の頃から見てるから、そんなに感動はないなぁ」
確かに、涼介君も詳しかったけど感動してるって感じじゃなかったなぁ。
身近にあるとそんなものなのかもしれない。
佑真さんのそばにいたら好きだと気付かなかったんだろうか、人を好きになる事が幸せな気持ちだと気付いた今、それは勿体 ないような気がした。
そういえば涼介君の用事は何だったんだろう。出かけるけど一緒に行くかって聞いたよな。
「涼介君、もしかして俺を湯畑に連れて行ってくれた?」
「別に」
キッチンで麦茶を飲む涼介君に視線を向けると一瞬動きを止めた後、素っ気なく返事をして麦茶を飲み終えリビングを出て行く涼介君の背中にありがとうと声をかけた。
「涼介って素直じゃないんだよねぇ」
「でもすごく気を使ってくれて優しいよね」
その様子を見ていた涼香ちゃんが楽しそうに笑うと俺もつられて笑ってしまう。
「翔君わかるの?涼介って誰と付き合っても長続きしないんだよね。何考えてるかわからない、冷たいとか言われて振られるの」
「わかるかも。涼介君って俺の友達に似ててさ、そいつもそんなこと言われてたから。ちゃんと見ればわかるんだけどなぁ」
不器用なんだよねぇと笑う涼香ちゃんに頷きながら二人で笑いあった。
「そういえばこの間彼氏と行って来たけど、夜の湯畑もライトアップされてて綺麗だよ」
さすが観光名所。ライトアップとかされてるのかそれも綺麗だろうなぁ。ん?彼氏?彼氏って言った?
「涼香ちゃん彼氏いるの!?」
「いるよぉ。あ、でもお父さんには内緒ね。うるさいから」
驚いて聞く俺に当然というように答える。
努さんが知ったら、うるさいというより泣きそうな気がする。それにしても今時の高校生は彼氏がいるのが普通なのか。
「やっぱ、好きな人と一緒にいるのって幸せ?」
「う~ん、一緒にいる時間は多くないけど、私の事を好きでいてくれる人がいることが嬉しいかな」
恥ずかしそうに笑う涼香ちゃんが少し羨ましかった。
「いいね。涼介君も彼女とかいんのかな」
「今はいないんじゃないかなぁ。涼介はサッカー馬鹿だから、毎日部活ばっかりだし」
言ってから涼香ちゃんがしまったという顔をした。
「毎日って……だって涼介君ずっと俺といてくれて――」
この数日、涼香ちゃんは毎日部活に行っていたのに、涼介君はずっと家にいた。
日焼けをして俺を軽く背負えるくらいの涼介君が何もしていないわけがない。
どうして俺は気付かなかったんだろう。涼介君がすごく気を使ってくれていると知っていたのに。
「ごめんっ!でも涼介は無理してたわけじゃないよ」
「ううん。俺の方こそ気付けなくて、みんなの優しさが嬉しいよ。ありがとう」
両手を顔の前で合わせて申し訳なさそうな表情をする涼香ちゃんに微笑みながら感謝を告げて、涼介君の部屋に向かった。
「涼介君、俺、翔だけど」
ノックして声をかけるとドアが開いて涼介君が顔を出した。
「何?」
こういう時の冷めたような言い方は話しづらくなってしまうからやめてほしい。
言葉に詰まる俺に入ればと中に入れてくれた。
机にはサッカー雑誌、壁には部活仲間なのかユニホームを着た数人の写真が貼ってある。床にはサッカーボールが転がっていて、涼香ちゃんがサッカー馬鹿というのも頷けた。
「何か用事?」
ベッドに腰掛けた涼介君が立ったままの俺を見上げる。
「涼介君さ、部活休んでくれてたんだろ。もう大丈夫だから心配しなくても――」
「涼香か」
言いかけた俺に涼介君がちっと舌打ちをする
「い、今のは根拠のない大丈夫じゃないよ!本当に元気になったんだって!」
必死で言う俺を見て涼介君が笑いだした。
「別に怒ってねぇよ。翔を拾った日に合宿が終わって、その後2日間は部活がなかったし、休んだのは昨日と今日だけ」
何がそんな面白 かったのか肩を揺らし笑いながら涼介君が話す。
「拾ったって!涼介君、俺一応年上な?」
「見えねぇけどな」
不満気に言った俺にすぐ言い返してくる。
「だと思ったよ!でも、ありがとな」
俺がふっと笑うと照れたように目を逸 らす涼介君の素振 りに生意気な弟、そんな感じがして笑っていると不機嫌そうな顔に変わっていった。
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