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第48話
俺にたくさんの変化をもたらした暑すぎる夏は慣れない仕事と忙しさの中、通り過ぎていった。
肌寒い季節になっても湯畑の周辺は湯煙で暖かく、長袖だと暑さを感じるくらいだ。
「翔、またここに来てたのか」
「うわっ」
ふいに背後から聞こえた声に身体が跳 ね、思わず柵 にしがみつき振り返ると長袖のシャツにネクタイを緩 めた制服姿の涼介君がいた。
「急に声かけるから驚く――」
言いかけた俺は涼介君の後ろにいる髪を左右に結 んだ色白の大きな目をした女の子に気づいた。
「私、帰るね」
女の子は俺と目が合うとペコリと頭を下げて足早に遠ざかって行った。
「よかったのか?」
「何が?」
ああと一言だけ返して見送る涼介君に俺が訊ねると怪訝 そうな顔で聞き返した。
「彼女じゃないの?送らなくてよかったのか」
空をオレンジ色に染めていた夕日は沈み始め、薄暗くなってゆく温泉街には街灯 がともり出していた。
「部活のマネージャー」
「ふぅん。お似合いだったけどな」
素っ気なく答える涼介君は相変わらず無表情で考えが読めない。
佑真さんも彼女いたりするのかな。いるだろうなぁ、イケメンだし、冷たそうに見える表情が微笑むと優しくて……俺にはまだ彼女といる佑真さんに佑真さんが幸せならそれでいいなんて言えない。
嫉妬心丸出しで佑真さんを困らせる俺が容易 に想像できる。
それでも佑真さんなら受け入れてくれるんじゃないかと都合のいい妄想ばかりが膨 らんでいく。
だめだ。俺と慎吾のLINEを見たとき、気持ち悪いって言ってたじゃないか。
俺が彼女といる佑真さんを見ても普通に笑えるようになったら、会いに行きたい。
許してもらえるならそばにいさせてほしい。
我ながら女々しいと思うけど初めての恋に俺自身戸惑 っていて何が正解なのかわからない。
ただ、佑真さんに会いたい……。
「翔、帰るぞ」
涼介君の声に促 されて帰り道を歩き出し、湯畑から遠ざかる俺の頬 を流れる風の冷たさに秋の終わりを感じていた。
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