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第51話

 仕事が休みの土曜日、(こころよ)く引き受けてくれた涼香ちゃんが温泉街の路地を抜けた先の和装雑貨の店まで案内してくれた。白井さんの事もよく知っているらしく、白井さんはちりめんの生地が好きなんだと教えてくれた。 俺は和柄の生地がちりめんだと初めて知ったわけなんだが。 「どれも綺麗で悩むな」 「ゆっくり選んでていいよ。私もいろいろ見てるから」 なかなか決められない俺にそう言って涼香ちゃんは離れていった。 それから30分程悩んで、黒地に折り鶴や花などが散りばめられた小物入れを買った。 白井さん喜んでくれるといいんだけど……遠足の前日のような少しの不安とわくわくした気持ちに楽しくなった。 誕生日にもプレゼントのやり取りをしたことがなかったし、慎吾ともおめでとうくらいは言うけど、せいぜいご飯を(おご)るくらいで。誰かに何かを贈る事がこんなに楽しいなんて思わなかった。 佑真さんの誕生日はいつなんだろう。俺はいつもしてもらうばかりで知らない事の方が多い佑真さんを思い浮かべていた。佑真さんに何かプレゼントできるなら……考えるだけでもすごく楽しくなる。 「翔君、顔、にやけてる」 「えっ嘘」 眉を寄せ不思議そうに俺を見る涼香ちゃんの言葉に頬を軽く叩くと冷たい風が刺さるようだった。 「そうだ、涼香ちゃんこれ」 さっき買ったちりめんの髪留めが入った紙袋を涼香ちゃんに渡した。 「何?わぁかわいい!ありがとう」 髪留めを取り出し太陽にかざしながら涼香ちゃんは明るい笑顔を見せた。 「俺の方こそ、良いお店教えてもらって、大分待たせちゃったし、ごめん」 苦笑する俺に首を振りながら楽しかったからと笑ってくれた。 「涼香ちゃん、あれ何……?」 路地から抜けた先の湯畑が見下ろせる広場でクレーン車が大きな木をゆっくり降ろしている。 「クリスマスツリーだよ。毎年あそこに設置されるの。ライトアップされるから綺麗だよ」 俺の視線の先を眺めながら涼香ちゃんが説明してくれた。 「クリスマスツリーって……あれ10メートルくらいあるんじゃない?規模すごいな」 「観光客も増えるから旅館も忙しくなるしね。クリスマスもお正月もお父さんとお母さんは旅館にいることの方が多いよ」 そう話す涼香ちゃんの表情が一瞬寂しそうに見えた。 すぐに明るくお腹すいたねと笑ってはいたけど、クリスマスはいつも一人だった俺には涼香ちゃんの気持ちがわかる気がした。

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