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第55話
クリスマス当日、休憩時間にケーキを受け取り、急いで家に帰ると誰もいないことに安心しながら冷蔵庫の一番下にケーキを隠して仕事に戻った。
「水沢、おまえ……まさか今日デートか?」
昼の利用時間が終わり、大浴場の掃除をしていると真顔の山口さんが近付いてくる。
「違いますけど」
「怪しいな。お前朝から顔が緩 みっぱなしだぞ」
「そんなことないですって」
じっと疑うように纏 わりつく視線に、自覚がなかったわけじゃないけどそんなに顔に出てたのかと恥ずかしくなってくる。
受け取ったケーキがまた可愛くて、トナカイが引くソリにサンタクロースが乗っていてチョコレートの板にMaryChristmasと書かれていた。
「ほら、また!白状しろよ!」
「ケーキ、ケーキを買ったんです」
「やっぱり女と食べるんじゃねぇか!」
床を磨くブラシを振り上げそうな勢いで詰め寄ってくる山口さんに慌てて答えても何を勘違いしたのか余計に山口さんの声が荒くなる。
「涼介君達と食べるんです。俺みんなでケーキとか食べた事ないから楽しみで」
溜息をつきながら俺は苦笑した。
まったく本当に面倒くさいなこの人は。
「水沢、彼女とクリスマス過ごしたことないのか?」
真面目な顔で聞いてくる山口さんはさっきとは逆に可哀想だというような目で俺を見てくる。
「クリスマスどころか彼女いたこともないですけど……」
「そうかそうか、俺より寂しいやつだったんだな、俺でも彼女とクリスマスを過ごした事くらいあるぞ」
「え、いや、寂しくは――」
「いいから、いいから、無理すんな」
俺の肩をぽんぽんと叩きながら頷く山口さんに弁解しようとしても聞いてくれる気はないらしく納得したような顔で山口さんは仕事に戻った。
真面目な顔で何を言ってるんだと呆れながらも、やっぱり憎めないなとふっと笑いが洩れた。
その後の山口さんは気持ち悪いくらい優しく、いいからいいからと早めに上がらせてくれた。
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