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第57話

枕元で聞こえるスマホの電子音が頭に響いて目を覚ますと手探りでスマホのアラームを止めた。 「勝手に止めるな」 すぐそばで聞こえた声にまだぼんやりした目を向けた。 「へあ!?え、涼介君、なんで??」 「憶えてねぇのかよ」 驚いて勢いよく布団から起き上がり、割れそうに痛む頭を押さえる俺に髪をかきあげながら涼介君が欠伸をする。 憶えてないというより……痛む頭を押さえながら記憶を遡っても、どこまでが現実でどこからが夢だったのか区別がつかない。 昨日は確か努さんとワインを飲んでて、美味しいワインだったな。違うそこじゃない。 ふらつく俺を涼介君が部屋まで連れてきてくれて……コートを着たままだった俺に脱いで寝ろって――思い出した。ベッドで寝ろっていう佑真さんと重なって一人になりたくないって寂しくなって……ちょ、ちょっと待ってそれって。 「俺、迷惑かけた……?」 「かなりな」 恐る恐る見上げた涼介君の顔は無表情で怖い。 「ごめん!すいません!」 恥ずかしいやら情けないやらで布団の上で土下座した。 「翔って酒飲むといつもあんな感じになんの?」 「どうだろう、すぐ寝てしまうからあんまり飲んだことないんだけど……」 そもそも佑真さんと知り合ってからお酒を飲むことがなかったし、合コンの時も慎吾に飲まないように言われてたしなぁ。 「もう酒飲むなよ」 「肝に銘じます」 小さく息を吐いて肩を落とした俺の左手首にエメラルドグリーンのパワーストーンブレスレットが付いているのに気づいた。 手首を上げて窓から差し込む光にかざすと透き通るように輝いている。 「綺麗……涼介君これ、湯畑の池の色と同じ!涼介君が?」 「ああ、昨日も同じこと言ってたけどな」 苦笑する涼介君の顔を見て記憶が蘇った。 一人じゃ寂しいと言う俺に困った顔で笑いながらくれたんだっけ。あれは佑真さんじゃなくて、涼介君だったのか。 「本当にごめん」 恥ずかしいを通り越して申し訳なさでいっぱいだった。 「もういいって」 「でもこれもらっちゃっていいの?」 「そこは憶えてねぇのな」 「え?」 ふっと笑った涼介君の表情が寂しそうに見える。俺まだ何か忘れているんだろうか、というより記憶があやふやではあるんだけど。 「あんたに買ってきたやつだから」 そう言って部屋を出ていく涼介君の背中にありがとうと声をかけた。 涼介君の憶えてないのかという言葉が気になりながらも、年末の忙しさに毎日帰って寝るだけの生活が続き、ゆっくり考える暇もなかった。

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