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第62話

 昼過ぎに家に帰ると、涼介君がリビングのソファに座っていた。 「た、ただいま。涼香ちゃんはいないの?」 「出かけた」 涼香ちゃんがいれば気まずさを感じることも少ないかと思い聞いてみた俺に素っ気ない返事が戻ってきた。 「涼介君は友達と行く予定とか大丈夫だった?」 「うざい」 冷たい声で言い放つ涼介君がわざとらしく大きな溜息をついた。 ひどくねぇ?俺そんなにうざいこと言ったか? 「涼介君さ!その言い方はどうなんだよ!」 涼介君の態度に腹が立ってきて思わず怒鳴った。 「何で俺に気使ってんの?」 涼介君の冷めた視線が突き刺さる。 そりゃ使うだろ。好きな相手が男だと知られて、どう思われているのかもわからないのに、使うなってほうが無理だろ。 「気まずいだろ!どうしていいかわかんないんだよ!」 何て言えばいいのかもわからず怒鳴りすぎて肩で息をする俺を涼介君がじっと見つめていた。 「翔の事、情けないと思ったことねぇから」 「へ?そこは正直どうでもいいんだけど……」 どうでもよくはないけど、今は俺が情けないか情けなくないかよりも、涼介君との距離感に戸惑っているわけで。 「は?気にしてたんじゃねぇのかよ」 「ふはっ。ごめんごめん、ありがとう」 ふてくされたような顔をする涼介君にいろいろ考えていた自分が馬鹿みたいで可笑しくなり笑ってしまう。 きっと涼介君も沙代子さんと同じように俺が誰を好きでも気にせずいてくれるんだろう。 そんなことより、俺が傷ついたんじゃないかと考えてくれていた。 それに比べて俺は自分のことばかりで、もっと相手の気持ちを考えられるようになりたいと痛感する。 「初詣、連れてってくれよ」 笑っている俺を怪訝そうに見ている涼介君に笑顔を向けると黙って頷き玄関に向かった。

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