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第65話

 まだ雪の残る2月半ばの夕暮れは早く、湯畑に着く頃には闇の中で湯畑のライトアップが優しく輝いていた。 イケメンか、佑真さんもイケメンだよな。最初見たとき思わず見とれてしまったっけ。 それにしても暇になるのは5月か……振られた話のおかげで山口さんに文句を言いそびれてしまった。 来月には会いに行こうと思ってたのになぁ。 ほっとしたような残念なような。 時間が過ぎても不安な気持ちは消えない。時間が過ぎれば過ぎるほど逃げてるだけな気がして自分が嫌になってくる。 「でも怖いんだけどな」 優しく揺れる淡い緑を眺めながら小さく呟いた。 「翔?」 忘れるはずのない透き通るような少し低いその声にまさかと思いながら振り返った。 「佑……真さ……ん?」 信じられないその光景に佑真さんを見つめたまま身体は時が止まってしまったかのように動かない。 「翔!」 駆け寄って俺を抱きしめる佑真さんに言わなきゃいけないことがたくさんあるはずなのに、突然のことに俺の思考がうまく働いてくれない。 「元気そうだな」 何も言わない俺から離れた佑真さんの手がそっと俺の頬に触れる。 そんな佑真さんの仕草が泣きたくなるほど嬉しかった。 「どうして……ここに」 胸が締め付けられるように苦しくて出す声が震えた。 「お前をここで見かけたかもって知り合いに聞いてどうしても確かめたくなった。困らせるつもりはなかったんだけどな」 湯畑を見つめる佑真さんの横顔がすごく綺麗で透き通るような声に俺の心臓がうるさいくらいに鳴り響く。 どうしようもないくらい佑真さんが好きだ。 俺が困らせることはあっても佑真さんが俺を困らせる事など何もないのに。 言いたいのに言葉が出てこない自分が情けなくて俯いて唇を噛んだ。 「翔、ごめんな」 切なく聞こえた声に顔を上げた時には佑真さんは歩き出していて表情は見えなかった。 「佑真さん!」 佑真さんがなぜ謝るのか言いたいことも聞きたいこともたくさんあるけど、ただ遠ざかる背中が寂しくて俺は佑真さんの名を呼んだ。 「翔、もう無理しなくていい」 駆け寄った俺に佑真さんが辛そうな顔で微笑んだ。 佑真さんは何か誤解してる。 『人の気持ちなんてね、聞かないとわからないものなんだよ』 いつか努さんが言った言葉が脳裏を過った。うん。本当にそうですね努さん。 「佑真さん、宮川旅館に泊まるんですよね?」 「ああ」 「後で行きますから、部屋で待っていて下さい」 俺が言うと佑真さんが眉間に皺を寄せて難しい顔をした。 そんな佑真さんの表情を見て、半年前俺がしたことを思い出す。信じてもらえなくて当然だけど……。 「佑真さん、俺もう逃げたりしませんから」 真っ直ぐ見つめる俺にわかったと頷いて佑真さんは歩いて行った。

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