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第66話
俺も旅館に戻り、事務所のドアをノックして中に入った。
「沙代子さんっ」
「どうしたの翔君」
息を切らす俺に沙代子さんが驚いた顔をする。
「俺の知り合いがここに泊まる予定で、話をしたいんですけど部屋に行ってもいいですか」
俺はここの従業員で、お客様の部屋に行くのは沙代子さんの許可を取った方がいいと思った。
「それは構わないけど、もしかして特別室の?」
「はい――」
「えぇ!あのイケメンって水沢君の知り合いだったの!?」
「はい、まぁ……」
事務所にいた仲居さんに詰め寄られ困っている俺を見て仕事に戻ってと沙代子さんが仲居さんを追い出してくれた。
「その人ってもしかして翔君の……?」
「す、好きな人です」
言葉に出すと恥ずかしくて顔が熱くなってしまう。
「翔君明日休みでしょう。泊まってもいいわよ」
「沙代子さんっ!」
ふふっと笑う沙代子さんの言葉に耳まで熱くなってくる。
「涼介には私から連絡しておくから心配しないで」
「お願いします」
「翔君、素直になってもいいと思うわよ。何とも思ってないならわざわざ会いに来たりしないもの」
それはそうかもしれないけど、でも俺の場合は状況がちょっと特殊だからなぁ。
とりあえず素直に自分の気持ちを伝えることは大事だな。
明るく笑う沙代子さんに微笑み返しながら頷いた。
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