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第68話
「翔、少し横になりたい。ここまで車で来て疲れた」
佑真さんが俺の手を優しく握ってふっと笑った。
「あ、じゃあ俺帰ります」
「そばにいろよ」
離れようとすると俺を引き寄せ耳元で囁かれた透き通る声に全身の力が抜けていく。
「――っ!!」
崩れ落ちそうになる俺を支えながら悪戯っぽい笑みを浮かべた佑真さんが俺を軽々と抱き上げ寝室まで歩き出した。
「佑真さん!」
恥ずかしさに耳まで熱くなるのがわかる。
どうしてこのイケメンはこんな恥ずかしくなるようなことがさらっとできるんだ。
俺が意識しすぎてるだけなのか。
俺を優しくベッドに降ろすと佑真さんもごろんと横に寝転んで肘をついた。
「お前ずっとここにいたのか?」
「……はい」
枕に顔を埋める俺に優しい声が聞こえる。
ひんやりとした枕に顔の熱が引いていく気がした。
今までよく平気で佑真さんの隣で寝ていられたよな俺……。
好きだと自覚するとこんなに緊張するなんて知らなかった。世のカップルの皆さんはどうしているんだろう。
ちらっと見ると涼しげな表情の佑真さんと視線がぶつかった。
「綺麗な色だな」
俺の手首を優しく持ち上げエメラルドグリーンのパワーストーンを見た。
「湯畑の池と同じ色なんですよ、これ。あの色がすごく好きでよく行くんですけど、時間忘れて眺めてたりしちゃう俺に涼介君がくれたんです」
佑真さんに会えなくて寂しかったから湯畑に行っていたとはさすがに恥ずかしくて言えない。
「誰がくれたって?」
ブレスレット越しに見える佑真さんの表情が引きつっている。
「涼介君っていって俺がお世話になっている家の高校生の息子さんなんですけど」
「お前どこに住んでるんだよ」
「ここの旅館の女将さんの家に……」
不機嫌そうな表情を浮かべている佑真さんに不安な気持ちになってくる。
俺は何か怒らせるようなことを言ったんだろうか。
「それで?」
佑真さんの不機嫌そうな声に胸が痛くなって下唇を強く噛んだ。
それでって言われてもそれ以上何もない。どうして佑真さんの機嫌は悪くなったんだろう。
「佑真さん、俺の顔ってそんなに苛つきますか?」
不機嫌そうな佑真さんの顔を見るとうまく笑えない。
「そうじゃない。噛むな翔」
「だって佑真さん怒ってるじゃないですかっ」
俺の唇をなぞる佑真さんの手を払いのけて俯いた俺の耳に佑真さんの溜息が聞こえて、佑真さんの見えない気持ちに怒りが沸いてくる。
「俺には何で佑真さんが怒っているのかわからない!」
勢いよく起き上がり佑真さんの肩をベッドに押し付けた。
「お前が俺の知らない所で誰かと仲良くしてるのが気に入らない」
「え?」
佑真さんを押し倒すような体勢になり、下から見つめられると急に恥ずかしくなりそっと離れてベッドの上に座り込んだ。
この人今何て言った?
気に入らないってどういう意味で?
しっかしりしてない俺の事心配してくれてるんだろうけど、勘違いしてしまいそうになるからやめてもらいたい。
「そばにいろよ、翔」
ゆっくり起き上がった澄んだ優しい声の佑真さんが俺の好きな優しい笑顔をしていた。
許されるならそばにいたいと願っていた大好きな人から言われて断れるわけない。
「俺もそばにいたいです。でも佑真さんを困らせてしまうかもしれないですよ」
佑真さんがどういう気持ちで言ってくれたのかわからないけど、俺は佑真さんが好きだから……。
「お前がいなくなるより困る事なんかないけどな」
佑真さんが俺の頭を優しく撫でる。
「俺結構、面倒臭いですよ」
「知ってる」
俺の言葉に佑真さんがふっと笑った。
「俺っ離れませんよ」
「ああ、そうしてくれ」
包み込むように返ってくる言葉に我慢できなくなって佑真さんに抱きついた俺を優しく受け止めてくれた。
「佑真さん、佑真さん!」
大好きな人の名前を呼びながら肩に乗せた頭を佑真さんに摺 り寄せた。
「犬みたいだな」
くくっと楽しそうに佑真さんが笑う
「猫の次は犬ですか」
口を尖らせる俺を見て記憶を辿るように視線を泳がせた後、笑いながら俺の頭を撫でた。
佑真さんってもしかして俺の事ペットくらいに思ってるんじゃ……人でもねぇのかよ。
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