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第71話
その日の夕方、帰って行く佑真さんに会えて嬉しかったのに、会えなかった頃より寂しくなる自分が女々しくて苦笑する。
「何か翔君、暗いね?」
リビングでぼんやりしていた俺に涼香ちゃんが声をかけた。
「そう?」
「友達に会えたんじゃないの?」
「うん、まぁそうなんだけど」
寂しくてとは言えず曖昧な返事をする俺に涼香ちゃんが不思議そうに首を傾げた。
「あんた、出て行くつもりだろ」
「え!?そうなの?」
リビングの入口から聞こえた涼介君の言葉に涼香ちゃんが驚いて俺を見る。
「でも、すぐにってわけじゃなくて――」
「同じことだろ」
言いかける俺に冷たく言うと涼介君は二階へ行ってしまった。
「涼介は翔君がいなくなっちゃうのが寂しいんだよね」
私もだけどと笑う涼香ちゃんに申し訳なくて俺も寂しくなってくる。
「ごめん」
「謝んないでよ」謝る俺に涼香ちゃんが明るく笑ってくれた。
その夜、話があると言う俺に沙代子さんと努さんはわかっていたように静かに頷いた。
「沙代子さん、努さん、今まで親切にしてもらってありがとうございます。俺、お世話になるばかりで……」
「あの人の所に行くの?」
沙代子さんの表情は優しく、でも少し寂しそうな気がした。
「はい。そばに居たいんです。でもすぐにってわけじゃなくて、仕事もありますから」
「翔君がいなくなると寂しくなるね」
努さんが静かにだけど優しく笑ってくれた。
「俺、ここで暮らせて幸せでした。家族ってこんなに暖かいんだって教えてもらったんです。すいません……俺、すいません」
ここにいた半年が幸せだったから離れるのは辛い。
だけどそれでもやっぱり俺は佑真さんのそばに居たい。
「何を謝るんだい?涼介や涼香だっていつかは出て行くんだよ。それは寂しいけど成長するってことだからね」
努さんの穏やかな声に涙が出そうになる。
「どこにいても翔君が幸せなら私達も嬉しいのよ」
沙代子さんの言葉に努さんも頷く。
「沙代子さん、努さん……俺が知らなかったことたくさん教えてくれて本当に、ありがとうございます」
頭を下げる俺にやっぱり良い子ねと沙代子さんのいつもの口癖が聞こえた。
「仕事は今月のシフトまでで大丈夫だよ」
「え、でも三月までは卒業旅行シーズンで忙しいって……」
戸惑う俺に努さんが穏やかな笑顔を見せた。
「彼、五十嵐君が僕達に挨拶に来てくれてね。自分といた時よりも翔君が元気なのは僕達のおかげだとお礼を言われたよ。彼なら安心だと僕も沙代子さんも思ったんだよ」
努さんの言葉に顔が熱くなって俯いた。
いつのまに話してたんだろう。佑真さんて本当にすごいな。
「あんまり待たせちゃかわいそうじゃない」
楽しそうに笑う沙代子さんの言葉に耳まで熱くなるのがわかった。
「後二週間くらいしか翔君といられないんだ」
振り返ると涼介君と涼香ちゃんが立っていた。
「あんた達はまた……」
沙代子さんが大きく溜息をつく。
「涼香ちゃん、涼介君、今までたくさんありがとう」
涼香ちゃんは目に涙を溜めながら、それでも明るく笑ってくれたけど涼介君は何も言わず部屋へ戻っていってしまった。
「涼介!まったくあの子は……ごめんね翔君。翔君がいなくなるのが寂しいのよ」
「涼介君には迷惑かけっぱなしだったから」
涼香ちゃんと同じことを言う沙代子さんに笑顔を返した。
涼介君が怒っているわけじゃないのはわかるけど、このまま別れるのも嫌だな。
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