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第74話
「ああ、そういえばこれを渡してくれって頼まれてた」
言いながら慎吾がカバンからスマホを取り出して机に置いた。
「何?」
「五十嵐さんから。携帯持ってないんだろ?連絡とれないと困るからって」
「でも……」
戸惑いながら慎吾とスマホを交互に見る。
佑真さんと連絡をとってもいい今、買おうとは思っていたけど、これをもらってしまうと毎月の支払いはどうしたらいいんだ。
「俺に返すなよ。俺は渡してくれって言われたんだからな。受け取りませんでしたなんて言ったら何を言われるか」
「わかった。ありがと」
佑真さんに文句を言われる所でも想像したのか嫌そうな顔をする慎吾を見て黙って受け取ることにした。
「だいたいお前は知らないだろうけど、お前がいなくなってしばらく五十嵐さんの荒れようは怖いくらいだったんだぞ」
思い出した慎吾がうんざりした顔で眉をしかめた。
「佑真さんが荒れるって?」
「知らないって言う俺に翔の居場所を知っているはずだろって、それはもう殴られそうな勢いで」
信じられない顔をする俺に淡々と話す慎吾を見て『怒ってないとは言えないな』と言った佑真さんの言葉を思い出す。
「あの人怒ると怖いよな」
「だから連絡とれよな」
俺の言葉に真面目な顔で忘れるなよと念を押す慎吾に頷いた。
「慎吾、俺ここに来て自分がどれだけ勝手だったか、周りの気持ち考えてなかった事とかに気付いたんだ。ごめんな」
「わかってる。心配した分、腹も立ったけど元気なお前見て安心した。次やったら許さないけどな」
いつも俺を心配してくれる親友にごめんなんて言葉じゃ足りない思いで見つめる俺を見つめ返す慎吾の目が優しく微笑んでいた。
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