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第80話

 車が走り出すとみんなと別れる寂しさに泣きそうになってしまう。 「泣いてもいいぞ」 「最近泣きすぎて、涙って結構あるんだなって思ったんですよね。みんなと別れるのは寂しいけどこれがあるから大丈夫です」 手首のエメラルドグリーンにそっと手を触れる俺に運転している佑真さんが複雑な表情をした。 「お前あいつのことどう思ってるんだ?」 「あいつって涼介君ですか?生意気な弟ですかね」 首を傾げながら答える俺に佑真さんがふっと笑った。 それにしても佑真さんも涼介君もどうしてお互いあいつとか言うんだ。 「でもあいつ言っていたぞ。酒を飲んだ時の翔がかわいいって」 「は?かわいいって……」 「お前、酒飲めたのか」 不機嫌というほどでもなく、だけど機嫌がいいわけでもなさそうな佑真さんの横顔を見ながら表情が読めないことに不安を覚える。 「飲めなくはないですけど、眠くなるんですよね。周りに迷惑かけるからなるべく飲まないようにしてるんです」 「じゃあ何で飲んだんだよ」 やっぱり不機嫌なのか声に棘がある気がする。 「送別会してもらって断りきれなかったんです。でもなるべく飲まないようにします」 「俺の前でならいいけどな」 何でもないような佑真さんの言葉でも俺には意味深に聞こえてしまってドキドキするからやめてほしい。 「今度飲むときは佑真さんにお世話になりますよ」 「そうしてくれ」 何気なく言った俺の言葉をさらっと返されて余計ドキドキしてしまった。

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