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第2話

 立ち止まったその場所は、メイン通りを半分ほど過ぎたとろこだった。  コンクリートが打ちっぱなしの壁が特徴的な、いくらか高さのある建物がある。  青年に掴まったのは、他とは違う電光看板など見当たらない暗い店の前だった。 「お兄さん、ひとり?店によっていってよ」  おとなしそうな顔をしているわりに、腕を引く青年の力は強い。  道を行き交う人の列を避けながら、照明が少なく薄暗い建物の軒下まで連れられる。 「いや、酒は帰ってから飲むので」 「大丈夫。うちはお酒がメインじゃないから」  その場を逃れようと一歩足を出すが、相手も客を手放さないと強引だった。  すでに俺の左腕は青年に抱えられながら体は密着して、傍から見れば恋人同士のようでもある。 「……持ち合わせもないし」  きっぱりと断ればいいのに、相手を追い払う体のいい言い訳なんてものは浮かばない。  ひきつった笑顔を作って、「迷惑だ」という態度をとることしか俺には抵抗する手段がなかった。 「あぁ、お兄さん。勘違いしてる。うちは飲み屋じゃないよ、猫カフェ」 「猫カフェ?」  くすりと笑った青年は、その少し切れ長な目を細めながら、俺の顔を下から覗き込んできた。 「そう。ワンドリンクで一時間、猫と癒しの時間を過ごせるよ」  毎日通る道だというのに、猫カフェなんて場違いな店があることを初めて知った。  動物を飼ったことがない俺は、犬派とか猫派といった話には無縁だ。  学生時代に友人宅で飼われていた毛の長い猫に、俺はひどく嫌われていたのを思い出す。 「猫?噛んだりするだろ」 「なに言ってるのお兄さん。そんなことしないよ、いい“話し相手”になるよ。ねぇよっていって、今日一回だけ騙されたと思ってさ」  にこにこと笑う青年は、その頭上にある猫耳を本物だと思わせるように、自身のつり目をさらに細くする。  密着させた体は離れないまま、また強引に建物の入り口へと引っ張られた。  飲食街の重い匂いが風にのって鼻をつくのに、その時だけは芳しい石鹸の香りが自分を包む。  それは腕を引く猫耳カチューシャをつけた青年の漂わせる匂いだと、俺はすぐに気がつくことができた。

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