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第7話
-霖雨-
「嫌ァ…っ!やめて、やめてぇ…っ!」
先生の身体の中は温かいからずっといたくなる。秋桜先生に言われたとおり、ボクも美仁先生の尻揉んだり、穴をいじったりしたみたけど、穴の中に手を入れてるまで美仁先生は別に普通って感じでいつもどおりふぅふぅあんあん言うだけだった。指4本飲み込んだからあと親指もってところで泣き始めちゃって、大人なのに転んで泣いちゃう子供みたい。
「壊れ…ッあ、ぅんん…!」
もっと先生のあんあんを聞きたくてなんかこりこりしてる部分を捏ねると喋ってる途中なのに背中がびくびくしてボクの待ってたあんあんが聞けた。先生は楽器みたい。不協和音なんて出ない、綺麗な楽器。もっと聞きたいけど親指がお尻の穴の皺に阻まれちゃって入らない。先生が使って欲しいって言ったハンドクリームを絞って塗り込んでもなかなか入ってくれない。壊れる、壊れるってずっと言ってて、骨折とかしちゃうの?ここに骨はないはずなんだけど。何が壊れちゃうのかも分からないけど、壊れそうな気がしちゃうんだな。
「やだ、やめて、やめて…やめてくださ…っぁ、あ」
テーブルので美仁先生が暴れる。理科準備室ならいいっていうからそこのテーブルの上に乗せたけど、手とかボクが膝で踏みそう出し備品とかに当たって壊しそうだから縛っちゃった。でも備品とか埃の積もった装置にしがみついてまでボクから離れようとする。風呂に入れようとした時の猫ちゃんみたい。
「そんなに嫌?」
子供みたいに目が潤んで、ボクを見てこくこく頷いた。ちんちんがまた大きくなっちゃうと白いほうの尿意を催すからやめてほしいな。ひぃひぃ息してて、ぼろって涙落ちてて抱き締めたくなった。可哀想だよ。
「分かりました。しません。そうだ、先生。この前ね、秋桜先生とお話したんです」
ボクがちんちん入れて穴の中のこりこりしたところつんつんする時とは違った感じでびくびくしてる美仁先生が眼球を濡らしてボクを見つめた。舐めたいな。
「びっくりしましたよ、秋桜先生に愛の告白しちゃったんじゃないかって。もし気付かれでもしたらボクたちの関係が崩れちゃいますね。先生が染井先生に告白されちゃうからいけないんですよ。それだけじゃない。秋桜先生の家族乗っ取るの、ボクが許しません。でも代わりになってあげます。秋桜先生って呼んでいいですよ。背丈全然違いますけど、呼ぶだけならタダですから」
嬉しい?秋桜先生のこと呼べるんだよ?ボクのこと気にしないでさ。ボクは美仁先生のこといっぱい呼ぶの嬉しいもん。嬉しいよね?
「深月く、」
「違うよね。ボクもう声出さないから、ほら。手の大きさ全然違うけど、秋桜先生になってお尻の穴いじってあげるね」
「い、や……深月く、そん、な…」
タンクトップを捲り上げる。綺麗な背中の絵を舐めながら中指だけお尻の穴の中に挿れた。こりこりしたところ触った時のあんあん言う声が好きだから、そこばっかりいじっちゃう。あの声聞くと、ボクのちんちんがむずむずして訳分からなくなるけど、ぼーっとしてじわーっとしてまたやりたくなる。煙草とかお酒ってあんな感じになるのかな?だからみんな、やめられないのかな?
「いや…っぁん、っあっ、あぁ…」
こりこりしたところぐりぐりするとぎゅうぎゅうされてハンドクリームが光ってた。抜き差しを繰り返すと美仁先生の腰が揺れて、勝手にボクの指の関節が見えたり呑まれたりしてハンドクリームを塗られてるみたい。
「あっ、あっあぁ、く、んン…っ!」
美仁先生、秋桜先生のこと呼ばないの?嬉しくないの?美仁先生が秋桜先生のこと呼びながらボクの指であんあん言ってるの空回ってて面白いのに。
「手、入れちゃうよ?」
4本の指までは入るからゆっくり1本ずつ足していく。嫌がるみたいにピンク色の穴の皺が固く閉まって、また開いて、タイミングをみて親を入れようとするけど詰まっちゃう。
「痛い…、痛っ、乱暴しな、いで…っ!」
縛った手首が白くなってぎちぎちいってる。美仁先生、自分じゃ動けないんだな、って思うとちんちんがまた張り裂けそうだった。いけるんじゃないかなって思って手を進めるけどやっぱり親指の先が入っていかない。
「だめ、やだっ、あっ、ん、」
美仁先生が暴れて、壊れる、壊れるってまた言ってた。ボクらの二等辺三角形を壊しておいてさ、何言ってるの。染井先生に告白なんてされるからいけないんだ。秋桜先生のこと諦めないからいけないんだ。秋桜先生の家族乗っ取るなんて許さない。染井先生と秋桜先生がおかしくなっちゃったのは美仁先生のせいだ。
「壊れちゃったらいいんじゃない?」
「お願いっ、許して…や、痛いっ、いや…っ、!」
先生のお尻の穴からボクが入り込んで着ぐるみみたいになって、万事解決すればいいんだ。ボクなりに少し怖くて躊躇してたけど、もっと力尽くでやれば多分肘くらいまで入るんじゃないかな?ハンドクリームをぶちぶち絞って、抜けなくなった指輪を外すみたいに、滑ってさ。ボクの肩まで呑み込んじゃえばいいのに。
「やめて!あっあ、いや、壊れる、壊れるっ、んぁあっ!」
先生が暴れる。縛った手首を振り回して、ボクから逃げようとする。引っ張って、ボクの上に落ちて、テーブルから転がった。壊れちゃえばいいのに。破片が飛んで瓦礫になった美仁先生は多分綺麗だよ。もっとぐちゃぐちゃにしてあげる。ちんちんが痛い。美仁先生の残骸を想像したら、ちんちんがじんじんする。
理科準備室の扉がノックされた。誰?木の扉には磨りガラスが嵌め込まれて、ぼやけた髪色で、秋桜先生だと分かった。塩素と日焼けでパリパリした茶けた黒髪は特徴的だった。
「ヨシ?いるか?」
物音してたもんね。居留守なんて通用しないよ。目を真ん丸にした美仁先生も綺麗だな。扉開けて、全部ぶち壊したい。秋桜先生のこと、諦めないから悪いのに。美仁先生はボクに必死なカオで首を振ったけど、ボクは聞いてやらない。首を振り返して、扉のノブに手を掛けた。
「はい、なんですか…っ~ッ、!」
演技してる美仁先生もやっぱり綺麗。ボクは裸の先生にのしかかった。秋桜先生と喋りながら、ボクに腸の中で白いおしっこされちゃう先生は多分もっともっと綺麗。染井先生にも見せてあげたかったな。
「あ~、この前はその、悪かった。飛広也とも何となく話したんだがよ、ヨシに水泳部戻ってきて欲しいって…オレがこんなこと言える立場じゃねぇんだけどよ。部活も上手く回らねぇっつーか、飛広也が気ぃ遣っちまって、その、」
ボクにちんちん挿れられた美仁先生は手首の縄齧ってふるふるしてた。綺麗だな。タンクトップをめくって綺麗な絵を出すと、きゅんきゅんナカが動いてボクはちんちんを突いてしまう。
「ぅ、ん…っ、」
「八重から話は聞いてっから。お前は被害者なんだもんな、すまなかった。オレからも重ねて謝る」
ボクの頭の中はじわーっと逆上 せたみたいになって、きゅうきゅう吸い付いてくる美仁先生の穴に夢中になる。でもぱんぱんさせたら秋桜先生にバレちゃう。バレたら、秋桜先生、ボクのこと可愛がってくれなくなっちゃうかな。秋桜先生にはもう他に可愛がってる息子がいるのに?もうボクのこと可愛がってくれるのは染井先生だけなのに?染井先生だって…この人に…
「ぅんっんッ!」
もうどうだっていい。この人と共倒れしちゃえばいいんだよ。
「ヨシ?大丈夫か?開けるぞ?」
激しく腰を打ち付ける。ぱんぱんする。秋桜先生に見られちゃうね。嫌われちゃうよ?美仁先生は項垂れて首ががくがくしてた。髪がふぁさふぁさ言ってる。さようなら、秋桜先生、染井先生。美仁先生とダメになる。この人が全部ぶち壊したんだ。
「あれ?秋桜せんせ!何してんです?」
ぎゅうぎゅうぶるぶるして美仁先生は床にまた精液垂らして、ボクが男の子って分からないの?
「あ?あれ、飛広也?」
「理科準備室に何か用っすか?今立て込んでるみたいなんで、用があるなら後にして欲しいそうっすよ。行きましょ!」
「あ…いや、そういうことなら分かった。じゃあな、ヨシ。また部活で」
風信くんって、何なの。覗いてた?いつからいたの?
「ん……くッ…ぁあ…」
美仁先生はまだびくびくして、自分で立とうとしなかった。力入らないの?
「先生が全部ぶち壊した」
なんで染井先生に告白されちゃうの?なんで秋桜先生のこと諦めないの?なんで秋桜先生に染井先生のこと避けさせるの?壊れちゃう。壊れちゃえ。先生なんか、壊れたらいいんだ。歯がかちかちして、まだ寝転がってる先生の白い肌にお腹が空いた。
-瑞雨-
身体中が痛ぇけど、これは俺なりのけじめで、手前で手前は殴れないからこれでちょうど良かったのかも知れない。お局先生に目は付けられるし、質問攻めに遭うし、傷が生々しいからかくせと言われるしでなかなか。鏡と睨めっこしながら貼った絆創膏は口を動かすたびに変な感じがした。それでも痛ぇのは初日くらいなもので。なんとなく意識して距離置いちまってた風信に相談があると言われて、そういうのは担任の先生の顔立てろって感じ。部活のことなら咲に。するってぇと数学に関してか?それくらいしか相談されることなんざねぇぞ。風信に捕まったのは廊下で、咲からは見えないところだからよかったものの、事が知れたら面倒臭いな。職員室の隣のドラマによく出てくる取調室みたいな閉塞的な部屋に風信を促す。赤本だの資料だのが室内に通路を作っているラックに積んである。
「んで?」
風信は俺に相談があると言ってきた時はヘラヘラしていたのに、俺と事務机挟んで相対した途端に俯いちまった。学業不振とかか?そりゃ担任には言いづらいかもな。それで部活続けられそうにねぇ、とか?それなら咲には確かに言いづれぇ。俺に白羽の矢が立つのも分からないけど、暇そうだったか?俺より若い教員はいるが、学歴を鼻にかけちまってて近寄りがたいしな。
「その…」
俺は頬杖をついて風信が話すのを待っていた。近いうちにコイツからも白い目で見られんのかな。あいつを手籠めにしろ、あのクソ理事長はそう言った。そこに上手く深月を鉢合わせる。最低の計画だな。
「八重先生…その、あの…恋愛のことで、」
「ほぉ」
深刻そうだから何かと思ったが。恋愛か。いや、侮れないな、高校生の恋愛事情。恋してるのか、風信クンは。
「えっと…」
風信は顔を赤くして俯いている。かわいいな、恋する青少年。俺みたいに汚れきった青春じゃないんだろうな。初めてはカレシ持ちの初対面の女って普通にヤバいだろ。
「ゆっくりでいい」
「…好きで、その…もうどうしていいか…そういう時、八重せんせなら、どうしますか…」
「コクりゃいいんじゃねぇの、そんなの。結果はどうなるか分からんが」
風信がガツンといけば大体の女はOKしそうだがな。風信はちらちらと俺を見て唇を舐める。
「でも、フられて…今の関係が崩れたら?」
「好きになっちまった時点で関係なんてもう壊れてんだよ。フられたからなんだよ。あとは成り行き任せ。でも後悔なんてすんじゃねぇぞ。後悔すんのは相手であって手前じゃねぇ」
肩を竦めておどけてやる。俺に相談することか、それ。よりによって俺に?これからすべての発言の説得力を欠く真似をしなきゃならねぇ俺に?
「八重せんせ!」
風信は勢いよく立ち上がって前にのめってきた。眼前に可愛い柴犬みたいな顔面が迫って、うっかりキスしちまうところだった。
「大丈夫か?膝打たなかったか?大会近いんだろ」
風信は顔を真っ赤にしてて、いや、俺も結構恥ずかしかったぞ。
「貧血じゃねぇよな。夜眠れない、飯が食えない、好きな奴のことばっかりで悶々とする。分かっけど、お前はお前なりの生活守らねぇと」
風信はよくやってるんじゃねぇか?忙しいだろうに。
「八重せんせ…」
今にも泣きそうな顔で俺を見上げる。性格も明るくて元気で素直で気さくで、努力家で実際頭も良いし聡い。それで水泳部のエースで、どうしてそんなに自信がない?ダメ男が好きなのか?相手は?
「ま、お前ならダイジョーブだろ。俺が女で同年代でお前にコクられたら即OK出してるよ」
風信は笑ったが、なんか適当な感じしていつもの元気溌剌って感じの押し付けがましさまである威力はなかった。
「健闘を祈る。はは、まだコクるって決まってねぇんだっけ?」
まだ緊張してるのか、風信は元気がなかった。甘酸っぱいな。そこまで想われちゃって、罪な子がいたもんだ。
「ありがとう、ございまっした。すみません、くだらないことで時間取らせてしまって」
「いんや。話してくれて嬉しいぞ」
風信が席を立つ。相談ってやつは終わりらしい。なかなか高校生してるなって背中を見送った。職員室のドアが開いて、なかなか閉まる音がしない。咲だ。
「飛広也と何話してた?」
「進路相談」
恋路のな。
「進路相談?数学担任ってだけのお前に?」
「話しやすかったんだろ。咲が心配してるようなことは何もねぇよ。いい加減にしてくれ。これでも教員の端くれなんだ。それとこれとの分別くらいはつく」
俺は案外、咲の言葉や態度や疑心に傷付いているんだな。
「そのカオどうした?」
咲は慌てることもなく見据えるような、昔の俺の小さな保護者って面で見下ろしてくる。これでも俺180あんのに咲はでけぇな。
「ドジ踏んだ。階段でな」
咲は不貞腐れたような顔をして黙った。何か言えよ。
「喧嘩じゃねぇなら、いーんだよ」
「温厚柔和、聖人君子の俺が誰と喧嘩するってんだよ」
また咲は黙って遅れた返事をする。
「ごめんな、お前のこと、分かってやれなくて」
「よせ。なんでもかんでも理解する関係なんざ俺はごめんだ。分かんなくていいよ。分かってくれようとしてくれて、あんがとな」
咲は反省モード。スーパー懺悔タイムってやつ。その辺の明るいだけのはっちゃけた奴等と咲が違うのはそこ。脇を通り抜けて先に職員室に帰る。ドアから離れた席の月下と目が合っちまって、逸らせばいいのに逸らせなかった。好きだ。好きだ。好きで好きで、治まらない。あいつの負担になる主張が胸と喉を圧迫する。手籠めにしなきゃならないって本気かよ。呼吸が上がる。月下が席を立つ。金縛りに遭っていたみたいな時間が終わって、倒れるように椅子に座った。好きなやつほど抱けないってそんなことあるか?童貞かよ?いや、それなりにガキの頃は遊び歩いたろ。大体勃つのか?いや勃ちはするだろうが、上手く流れに乗れんのかって。顔面はまだ痛ぇし腰と膝は軋んでる。腹も痣だらけ。弱気になる。怪我ってほど大袈裟じゃなくても。
今日の最後の授業を終えてタバコを吸いに外へ行くと珍しくあいつがいて、タバコ吸ってるイメージなんてなかったもんだからびっくりしたが、特に吸ってる様子はなかった。どちらかといえば嫌煙家のような感じがしていたから吸うにしろ吸わないにしろ暗黙的な喫煙所になってる裏校舎裏の用務員駐車場に近付くとは思わなかった。こいつを1人にしておくのはなんだか不安で、でも多分俺といるよりは安全だろう。風評的には。また目が合っちまったけど見ないふりして、居ないふりしてタバコに火を点ける。こいつの肺汚したくねぇんだけど。いや、津端のクソ理事長はあれでヘビースモーカーだから、一緒に居るってなら案外こいつの肺も真っ黒かもな。吸ってる本人より吸ってねぇ相手のほうが負担がデカいってすげぇよな。
「あの…」
「あ?」
不意打ちすぎて威嚇しちまった。向こうから話しかけてくると思わなかった。この場面咲に見られたらヤバくねぇ?
「いいえ…」
「あぁ、そう」
ぷかぷか紫煙を吸って、吐きながら、マジで禁煙について考えていた。月下は俺の斜め後ろに立って、刺されそうで怖ぇんだけど。こいつに刺されるならアリか?いや痛ぇもんは痛ぇだろ。今なら足腰痛ぇから殺ろうと思えば殺れるんじゃねぇか。いくら華奢だ、線が細いといっても月下も男なりに筋力あるだろうし。
「灰、落ちますよ」
「えっ」
俺は慌てて携帯灰皿を探す。どうぞ、と言われて反射的に横から出された灰皿に灰を捨てた。月下の手には円形の小洒落た灰皿があった。
「あんた、タバコ吸うのか?」
「いいえ」
冷たい顔をして月下は俺から顔を逸らす。じゃああのクソじじいのためか。
「受動喫煙ってやつ?」
「ええ」
「あ、そ」
深月チャンから贈られた灰皿にタバコを押す。深月チャンね、まさかこいつとデキてたなんて。
「それ…」
「あ?これ?深月からもらったんだよ。なかなか気が利いてるだろ」
ピンクが差してある携帯灰皿をあいつの前にちらつかせる。お前のカレシからだよ、なんて揶揄する気も起きない。年下カレシは高校生…流行りのアニメか?
「あの…怪我は大丈夫ですか」
「言われるまで忘れてた」
喫煙所…喫煙所じゃねぇけど、喫煙所を離れて職員室へ戻ろうとすると、月下も後を追ってくる。
「待ってください。話があります」
こいつから俺に一体何の話があるんだよ?不穏な心地になった。なんだ?咲にコクっちまったとか?お前は俺といると、ろくなことにならねぇんだよ。
「手短かに済むのか?あまり2人でいるところ見られるのは、まじぃだろ」
「………はい」
何だよその間。声震えてんだけど、もしかして誰かに何か言われたのか。
「保健室に来ていただけますか」
「湿布も絆創膏も足りてるんだが」
「お願いします」
こいつにお願いされたら断れるわけないだろ。職員室とは逆方向に進んで案内するような月下についていく。保健室の先生はいなかった。放課後じゃ、あの先生はとっとと帰っちまうな。室内見回してる俺の後ろで施錠の音がして一瞬閉じ込められたのかと思った。内側から開けられるんだけどさ。
「なん、で…鍵閉めるんだよ」
理科実験室のことは無かった。だから俺が怯えることなんてない。クソじじいとサシで向き合うより怖ぇんだけど。
「私を抱くんでしょう」
あの日の再来か。でも投げやりだった。ベッドの上にすたすた近寄って、乗りあげて。
「保健室はそういうコトする場所じゃねぇんだけど」
保健室っつーか学校が。でもそれ、勤務時間中にコクって職員玄関でキスした俺の言うことじゃない。
「脅迫されていることは分かっています。秋桜先生の負担にはなりたくありません。お願いします」
自分で服を脱いでいく月下のはだけていく肌から目が逸らせない。少なからず興奮しちゃいるが、気持ちは伴ってない。俺の。
「貴方に抱かれないとならないんです。ただで少しお時間をいただくだけですから…」
「誰に何言われて俺に抱かれないとならねぇんだよ。俺にも選ぶ権利があるだろ」
「貴方は知らなくていい。私を好いているというのなら抱いてください。好いていないなら、この話はここまでです」
めちゃくちゃ煽るじゃん。俺はこいつが好きだってことに嘘吐きたくねぇんだけど、分かってて言ってる?
「秋桜先生と深月くんの仲まで裂きたくないんです。貴方には悪いと思ってます。でも、」
「あんたなりに気ィ遣ってくれてるわけだ?ありがてぇな」
ベッドの上に座る月下は色っぽいが、俺にも理性はまだあんだよ。
「こうでもしないと、貴方、私を…抱かないでしょう」
「…咲が出てこなきゃ、そのつもりだった。あんたは深月とよろしくやってりゃいいんじゃねぇかって。俺には別に何の被害もねぇ。嫉妬に狂う立場にもないんだからな」
私が苦しくてもですか。呟きみたいな小声を拾っちまって、俺はびっくりした。脱ぎかけのシャツのボタンからあいつの荒れた手が落ちて、項垂れて、俺は反応に困る。なんでお前、俺のこと頼るんだよ。
「秋桜先生に負担をかけたくありません。でももっと、貴方を強姦魔にするわけにはゆきませんから、合意があったということで…」
「馬鹿じゃねぇのか。こんなん合意だなんて言えるかよ。あんたは俺を好いちゃいねぇのに、何が合意があっただ」
「なら、私を強姦するんですか」
「そういうことになる。でも痛くはしない。出来るだけ傷付けない。身も心も。悪ぃな、犠牲にしちまって。咲ばっかりは、俺も譲れねぇんだわ」
強い眼差しが俺を射す。咲への想いは負けてねぇって?そうだろうな。これは一緒にいた長さの問題じゃない。あの男は罪だよ。
「深月に不義理を突っつかれても泣くなよ。俺が全部悪ぃんだから。あとはあのじいさんがどうにかしてくれんだろ」
お喋りはここまでだった。唇を寄せたあいつの提案は魅力的だったが強姦にキスは要らない。黙らせるみたいに人差し指を突き立てて躱し、ベッドに押し倒す。男とセックスなんてしたことないもんだから、身も心も傷付けないなんてキザなこと言っておいて自信は正直ない。要領やっぱ違うだろ?女とのセックスだって上手かったどうかなんて分からない。どういう場面で自覚を持つんだ?ああいうのって。戸惑っているうちにあいつの乾いた手が俺の手を取った。とろんとした目が俺を見上げて、あいつの胸の上に掌を置かれた。バクバクした心臓は、抱いた女と同じだった。膨らみがないだけで。あいつは自分で開けたシャツをさらに開いて、大きく肌が晒される。薄い色の乳首が勃ってて思わず手が伸びた。男だとどうなる?自分にもあるはずの部位が突然遠いもののように感じられる。俺の心臓がうるさい。指の腹に当たった粒のような感触は、撫ではずなのに撫でられたように気持ちがよくて、もっと触れていたくなる。
「…ん、」
月下が身を捩ってシーツが鳴った。長く細い指に摘まれて皺が寄る布が生々しくて目眩がする。指の腹の間で胸の先端は硬くなって、月下の鼻から抜けた声と吐息に下腹部が痺れていく。それから思考もだった。月下の下半身も落ち着かずに揺れ動く。キスしたくなって顔を近付けると唇が重なる寸前で目的を思い出して躊躇った。すぐ傍にある綺麗な月下の顔が切ない表情で歪んだ。錯覚する。恋人の戯れみたいだ。望んだはずのひとときなのに、こんなはずじゃなかった。おそるおそる胸元に口を近付けて、すべすべした肌を唇で辿る。吸い付くような皮膚だった。月下の匂いがする。好きだ。好きだ。押し込めた感情は溢れ出てくる。こんなはずじゃなかった。でも身体は求めて止まらない。
「あっ……っ、」
指で固くした粘膜の粒を舌先で突つく。もう片方も指で押し潰してから撫でた。周りの粘膜もくるくると円を描いて、また先端を捏ねる。忙しなく長い脚が動いていた。引き締まった腰から腿を空いた掌でなぞる。
「ぅ、んっ、…、ぁ」
好きだ。こうなりたかったはずだ。恋人みたいにしか触りたくない。殴りつけて脅して、泣いて怖がるこいつなんて抱けるはずがない。そんななら、抱き締めて寝付くまで傍にいることくらいしか。そこまで追い詰めるまで何も出来ないのも嫌だ。
「つきも、と」
守りたかった一線を越えそうで、空しく唇はあいつを呼ぶ。あいつの唇が近付いて、あいつの額に行き場をなくしたキスを落とす。好きだ。また言って、こいつに背負わせそうで。好きだ。好きだ。愛してる。
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