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第2話

◇ 「おい、あの子さ、めっちゃ美人じゃん」 「どの子?あ、本当だ。すごい綺麗だな……って、あの子?」 「そうそう。なんか雰囲気がめちゃめちゃエロくない?髪の毛も艶々で、色白だし。体つきも腰もほっそりしてて、抱き心地良さそう。ちょっと冷たそうなとこが、これまたヤバい。はぁ……すげぇ好み」 「また、お前はすぐそっちに持ってく……」 「なぁ誰か、あの子の名前知らない?……いいや。俺、直接訊いてくる!」 「お、おいっ……」  桜の舞い散る校庭を背景にして、教室の席で本日第一号になる日直日誌を書くことを任命され、面倒だなと思いながら書いていた俺に、赤味がかった金髪の不良っぽい出で立ちをした同級生が駆け寄って来た。  どうせ校庭にいる女子の新入生を眺めながら、好みの子を探しているんだろう。子供染みていて下らないが、ああいうチャラっぽくて喧嘩も強そうなのが一般的にモテるんだろうな。と他人事として気楽に考えていた俺の目の前までやって来て、至近距離まで顔を近づけて覗き込んで来たかと思うと、奴は笑顔を顔一杯に浮かべて、明るくあっけらかんと言ったのだ。 「ねぇねぇ、君名前何ていうの?教えて下さい!そんで俺と付き合って!エッチ上手いよっ。めちゃくちゃエロく可愛がって、天国見せて上げるから抱かせ……ぶっ!」 「失せろ、クズが……」  いっそ無邪気なまでの馬鹿な口説きセンスを持った男子高校生の頭を、本日初めて分厚い日誌でぶっ叩いてやった。  それが、玖珂匠真(くがしょうま)、十五才との初めての出会いだった。  いや、十年経った今でも、精神年齢はそうは変わってないんじゃないかと思える程、あいつのエロガキっぷりは今でも健在だ。どうせ何人もの女性と次々と関係を持っては、取っ替え引っ替えしているんだろう、と彼の友人に言ったことがある。すると何故か意味深にニヤニヤと笑いながら、あいつも初恋を拗らせてるからな、とかなんとか冗談を言った時は、つい笑ってしまった。  彼の経営するバーに、毎晩のように入り浸っているらしい玖珂の状況からすると、黙っていても女性が勝手に彼に群がり、彼女の座につくのだが、なぜかさっさと去って行かれるらしい。その理由を聞きたかったのだが、それはなぜかは教えてくれなかったし、プライベートな事だしなと、こちらもそれ以上は聞かなかった。  元々、玖珂とは性格も考え方も、何もかもが合わないと思っていた。だから、数日過ぎれば、学期が変われば、一年後クラスが変われば、もう関係の無い、只の元同級生になるんだと思っていたのだが。  なぜか、三年間の高校生活と四年間の大学生活を奴に追い回された。ある事情で同じ職場に就職する羽目になるも、安息の充実した二年間を経験豊かな信頼できる先輩に助けられながら過ごせたのは感無量だ。  そしていよいよ迎えようとしていた三年目の春に、遂に奴が切れた。俺と一緒に仕事をさせろと上司に喧嘩を売り、職場で派手に暴れたのだ。危ないからと止めようとした同僚達の中には、何故か笑いながら「お前にしては頑張ったぞ」と良く分からない励まし方をしてくる者もいれば、建物が壊れちゃうからと泣いて止めようとする者。他に俺に同情する者等色々だった。  その後、至急助けを呼ばれた支部長直々に止めに入ってこられ、一緒に叱られた挙げ句、なぜかペアを組まされる事になってから、漸く半年になろうとしている、厳しい夏であった。

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