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第13話

◇ 「本当にどうもありがとうございました」 一階に降りて寝室に入ると、ベッドの上で遥が大量のクッションにもたれて起き上がっていた。横には寄り添うように、桂斗が飲み物を用意して控えていた。 「遥さん、身体の調子はどうですか?」 「まだ目覚めたばかりで、あちこち身体が痛いですが、眠気はさっぱりなくなりました」 遥は少々やつれてはいたが、穏やかな表情ではっきりと受け答えをした。 どうやら、帰国して空港に迎えに来た桂斗に会ってから眠気が強くなったらしいのだが、この家に入って暫くして、抗えない位の眠気が襲って来たのだという。 「おそらく桂斗さんの遥さんに対する想念が、相当溜まっていたんでしょう。それに同じ気持ちでいた遥さんが、引っ張られるようにして、精霊を暴走させてしまったと推察されます」 あくまで私の考えですが。そう返すと、二人とも恥ずかしそうに目を逸らした。そうか、両想いになるとこんな反応をするのか。幸せになれて何よりだ。 彼らの熱い仲に当てられて、こちらも妙な気分になりそうだな、と思っていると、玖珂が電話を終えて戻ってきた。 「夕方過ぎに、西條さん達が診に来てくれるって」 「分かった。遥さん。もうすぐ医療科の特務職員が、こちらに診断書を作成しにやって来ますので、彼らに任せて良く診てもらってください。痛みや違和感等、気になる症状は何でも申告して下さいね」 「分かりました」 「それでは、私達はここまでになります。お疲れ様でした。今日から一年間は、数ヶ月置きに検査を受けてもらったりなど色々ありますが、それも彼らが詳しく教えますので」 俺はまだ重く感じる身体に力を入れて立ち上がった。 そして玖珂と共に部屋を出ようとした時、ふと気になった事を思い出して振り返った。 「あの、そういえば……」 「はい?」 「この部屋で藤の花が大量に現れた件ですが、何か心当たりはありますか?」 「ああ…」 桂斗は照れた笑いを隠そうと手で口元を押さえた。ちらりと遥を見てから、どこか吹っ切れた表情で答えた。 「火事になる前の家の庭に、藤の花が沢山育てられていたんです。藤の花が満開の時期に、二人で花の日陰で昼寝したのがずっと忘れられなくて……」 「桂斗も?実は自分も同じ事思ってた……」 「え?義兄さんも?」 「また藤の花、育てようか」 「うん……。一緒に育てよう」 再びじっと見つめ合って二人の世界を創り始めてしまったのを見て、余計な事を訊いたなと、玖珂に笑いを堪えて囁かれたが、流石に何も言い返せなかった。

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