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第4話
俺は一人っ子だ。
両親の夫婦仲は円満。離婚する予定もなければ、再婚する予定もない。
新しい兄弟ができる余地は微塵もない。
(隠し子!)
まさか。
父か母のどちらかに……
「違うね。ベータの腹から私は生まれない」
………………ベータ
って、なんだ?
「なんでもない。こちらの話だ。藍樹」
優雅に微笑む彼岸花の瞳の奥に、なにを隠している?
この男、胡散臭い。
「久し振りの再開に見惚れてしまったかな?」
「お前は兄なんかじゃ」
「藍樹君も嬉しそうですね!」
おいッ、課長!
お前はなに、要らんところで口を挟んでくるんだァァーッ
お前の目は節穴か。
この顔をよく見ろ。
どこが嬉しそうだ。
疑ってるんだよ!
目の前の、この胡散臭い男を!
この男は俺の兄なんかじゃ
「あぁ、ほんとうに嬉しそうだ」
節穴の目、もひとつここにも居たーッ!!
むつぅ~~~
俺のこの顔をよく見ろ。
「頬っぺたツンツンしていいかな?」
「はっ?」
「『はっ』じゃなくて『はい』だよ」
「はい?」
「よし!膨らんで可愛いね♪ツンツンしよう!」
「どうぞ」
おい、こら。
勝手に承諾するんじゃない、課長!
「私はね……」
大きな掌が俺を包んでいた。
頬を温もりが包んでいる。
まるで繊細なガラス細工に触れるかのように。
熱で溶かしてしまわないように……
彼岸花の双眼が燃えている。
「膨らんだものをツンツンするのが好きなんだ」
「………はっ?」
この男、卑猥だ。
「お返事は?藍樹」
彼岸花の火が揺れる。
「私がお前を求めているんだ。お返事は一つしかないね」
朱に燃え立つ火が揺れ蠢く。
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