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第8話

「さぁ、行こうか!私達の愛の巣へ!」 「ギャアァァァ~」 愛の巣って、どこだー 「ここだよ」 こんな所に部屋なんてあったか? 「改装中の部屋だ。リノベーションを完成させて来週にはセミスイートとしてお披露目する」 角部屋……エグゼクティブ・バトラーの俺はホテル・モナルヒの全てを熟知していた筈だが。 「……とは言っても。リノベーションは既に終わっているよ。MSSである私の最終チェックを行うために、表向きにはリノベーション最終段階という事になっているがね」 ドアが開く。 「MSSは結構忙しいんだ。なかなか顔を見せられなくて、すまなかったね」 闇に目が慣れない。 初めて入るモナルヒ・セミスイートルーム…… 「お前も気に入ってくれるといいが」 突然の眩しさに瞼を伏せた。 「さぁ、目を開けてごらん。ここが私とお前の愛の巣だ」 「ここ……」 ((ひのき)?……) 薫りが懐かしい。 数奇屋(すきや)造りの部屋だ。 ホテルだからてっきりヨーロピアン調のアンティークの部屋だろうと思い込んでいた。 「モナルヒは頂点に君臨するホテルだ。ほかのホテルの頂上の更に上を行くよ」 調度品は日本の工芸技術の高さを肌で感じられる。 「箪笥(たんす)なんだな」 「福井の越前箪笥だ。江戸後期から作られている」 「伝統が暖かく感じる」 「私もだよ」 越前の漆塗りの技法と、金具の蝶番(ちょうつがい)には刃物づくりの技法が取り入れられている。 「和箪笥にしたのは部屋のインテリアとしてもいい。これからのホテルはより積極的に外国人観光客をもてなさなければならない。日本の伝統工芸は彼らにも気に入ってもらえるよ」 それにね…… 「日本人にも、この国の古き良き工芸品を見直すきっかけになる」 すっと細めた彼岸花の目に柔らかな光が灯った。 「私はこの国を愛しているよ」 だから…… 「もっと皆に好きになって欲しい」 「俺もだ」 この部屋にいると、自然とそう思う。 檜の薫りに包まれて お前の温もりに包まれて 薫りが暖かい。 「気に入ってくれて嬉しいよ」 ぽんぽん 抱っこされたまま背中を叩かれた。 (これじゃあ★) あやされているみたいじゃないか。 俺はホテル・モナルヒのエリート エグゼクティブ・バトラーだぞ! 「おい」 「お兄様を『おい』呼ばわりとは……感心しないね」 「お兄様じゃないだろ」 「お前は疑ってるのかい?」 「疑う以前の問題だ。俺に兄はいない」 「いるだろう?目の前に」 チュッ♥ ………………なんだ? 耳たぶがあたたかい。 あたたかいどころじゃない! 熱くて 熱を持って 燃えそうだ! これって、これって…… (まさかッ) キスーーー!!! 「お兄様は私だよ」

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