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第9話

キキキっ 「こら、暴れるんじゃないよ」 キキキーっ 「私にぎゅっと掴まるんだよ」 キーキー 「私から抱きしめてあげよう……ほら、こうすれば恥ずかしくないね。お前も私を抱きしめなさい。ぎゅっ、だよ」 キぃ~キぃ~ 「ぎゅっ……できるね」 「できんわーッ!!」 俺はお前にキスされたんだぞ。 耳たぶとはいえ、キスなんだぞ。 「おや、耳が真っ赤だね。どこかに打ちつけたのかな」 「ちゃうわーッ」 お前がキスするからっ 「痛いの痛いの、飛んでけー」 「ムギャアァァァ~」 ………………耳が生暖かい湿り気の渦中に突入した★ (大事な左耳……食べられたぁ~!!) ムギャムギャムギャアァァ~~!! 「おっと」 すとんっ 俺、撃沈 「お前が暴れるから、落としてしまったよ」 「こここっ」 「コケコッコー♪」 「おい」 誰が鶏の真似せぇ言うた? 「『おい』呼ばわりはいけないね。『お兄様』と呼びなさい」 「それ、さっき聞いた」 「お兄様だよ」 顎を持ち上げられる。 深紅の瞳に囚われる。 俺は、この男を見上げている。 「お兄様だよ……言ってごらん」 なぜ俺は、この男を見上げている? 先程までこの男に身体の自由を奪われ、抱っこされていたのに…… (体が痛くない) 軽い衝撃が走ったが。 (そうだ) 俺は突然、この男に腕をを離されて落とされたんだ。 エグゼクティブ・バトラーになんという非礼な扱いを! 否、この際、エグゼクティブ・バトラーは置いておこう。今回だけの特別だぞ。 話が前進しないからな。 (さて) 考えねば。 なぜ、俺は痛くない? なぜ、俺はこの男を見上げているんだ? 「私を愛しているからだよ」 「違う!」 不正解 「いいや、正解だ」 なんて非論理的な! 愛しているから、落とされて体が痛くないなんて事あり得るものか。 そもそも前提が間違っている。 (俺が、お前を愛する事なんてない!) 「未来は誰にも分からないよ。お前にも、私にも……」 どうして? 彼岸花は甘く囁く…… こんなにも自信に溢れて咲き誇る? 「愛しているから」 彼岸花の深紅から、目が離せない。 紅い花の底から逃げられない。 逃れられない。 「答えとしては不足かい?」 花が揺れている。 「お返事は?」 指先が耳をなぞった。 キスされた左耳…… 「お前に聞いているんだよ?」

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