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「唇」 4

「俺、君に伝えていなかったね」  何を口にしようとしているかに気が付いて、樋山の口を手で押さえた。  聞きたくない。それを聞いてしまったら……。 「駄目です。俺に優しくしないでください」  きっと彼の手を掴んでしまう。 「お願いですから」  口を塞いでいる手が押される。  顔が徐々に近づき、まるでキスをされているかのようだ。  二人の間を塞ぐこの手を離した瞬間、逃げることはできないだろう。  樋山の手が、首を優しく撫で、身体がぞくぞくとする。  欲しがっている。こんな自分を。  もう、押さえておくのは無理だった。  手がゆっくりと下へとおるとすぐに、唇へと食らいついた。 「ん、ふっ」  息が荒れるほどの激しい口づけに、意識が蕩けだす。  何度も、何度も、深く、角度を変えて、吸われ、絡まりあい、そしていやらしい水音をたてる。 「はぁ、せんぱぃ」 「んっ、だめ、もう少し」  足から力が抜け、たっていられなくなりずるずると崩れ落ちて、そのまま床に押し倒される。  キスにくらくらとして、下半身に熱がたまる。  たっている。樋山とのキスに。しかも自分だけではない、彼も同じだ。さきほどからかたいモノがあたっている。 「ん、ごめん……」  それに気が付いてか、唇が離れ身を起こした。 「これ以上は、望んじゃ駄目かな?」  それは、この張りつめたモノをどうにかするということか。  流石に頭が冷静になる。 「それは、駄目です」  キスだっていっぱいいっぱいなのに。 「うん、キスを許してもらえただけでもよしとしないとね」  そう頭を撫でられる。それがあまりにも優しくて胸がきゅっとなった。  このまま樋山に包まれていたい、そんな気持ちになる。  だが、こんなつまらないやつに、いつまでも優しくし続けることなどできるのか。  もしも掴んだ手を離されてしまったら、それを考えると怖くなって樋山の手を払いのけた。 「うしお、くん?」  急変した潮の態度に驚いている。 「俺、授業があるんで失礼します」  少しふらつくが、どうにか立ちあがって頭をさげる。 「一緒に」 「そういうの、いらないです」  今一度、差し伸べられた手を無視し、おぼつかぬ足取りで歩き出した。

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