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「手」 2
樋山はいつもモテる。周りには女子がいて、いつも華やかなのだが、今日に限っては違っていた。
まず、側に女子が居ない。そして爽やかさがない。
どこか落ち込んでいるように見える。
「あれ、君が絡んでいるんでしょ?」
「え、いや」
「明石君、樋山って爽やかな笑顔を浮かべた王子様ってカンジじゃない?」
そう言われて頷く。いつもキラキラとして、優しい笑顔を浮かべている。
「まぁ、誰に対しても、ああいう顔なんだよね」
「誰にでも優しいということですよね」
ひとりでいる潮に声を掛けたのも、その優しさ故なのだから。
「落ち込んでいても、樋山って辛い顔をしないんだよ」
ちらっと真田がこちらを見る。潮絡みだからと、そう言いたいのだ。
「なぁ、明石君、アイツの気持ちだけでも聞いてやって」
「……俺は」
一度つないだ手が離れてしまったら、それを思うと怖くて逃げた。
無理ですと後ずさるが、辛そうな樋山の姿を見ると足が止まった。
「明石君だって、気になっているんだよな。だって、泣きそうだもの」
「え?」
目を見開き、自分の顔に触れる。確認したところで表情はわからないのに。
「わからない」
「それでも、心の中は自分でもわかる」
そうでしょう、と腕が背中に回る。
「真田先輩」
胸がずきずきと痛んでいる。そうさせたのは自分だからだ。
だけどそれを認めたくなくて口を硬くむすぶ。
「だからさ、いってらしゃい」
「え、わっ」
背中を強く押され、身構えていなかった潮は前へ二歩、三歩と進む。
「樋山っ」
真田が声をあげ、樋山がこちらへと視線を向けた。
目が合う。
そして、後ろへと下がる潮に、逃がさないと素早く樋山の手が腕をつかんだ。
「潮君」
「え、あ」
腕を振り払い逃げなければ。上下に振るい手を離そうとするが、しっかりと掴まれている。
「お願いだから逃げないで」
もう片方の腕まで掴まれて押さえ込まれてしまう。
「それに、目立ってるから」
周りの目がこちらへと向いている。それでなくとも樋山は目立つ存在なのに、揉めているとあったら、余計に見られてしまう。
「わかりました」
今は大人しく樋山と共にここから離れる。
二人を見ながらにやにやとする真田に、樋山は脇腹にグーパンチを食らわせる。
「うおっ、ひでぇの」
「うるさい、お節介」
本当に仲がよいのだろう。ふたりとも口元に笑みを浮かべていた。
「明石、頑張れ」
と頭を撫でられ、潮は頭を下げる。その大きな手は樋山と同じく温かい。
何故だろうか、心がじわりと暖かくなる。
「ありがとうございます、真田先輩」
呟くような声であったが、真田に届いたようで、親指を立てて口角をあげた。
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