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綿貫碧(わたぬき あおい)1-1
人生こんな物だろう。
綿貫碧 は、説明を聞きながらそう思った。
初めからこんな美味しい話しは、おかしいと思ったのだ。自分は特に頭が良いわけでもなく、スポーツが秀でて出来るわけでも無い。いくら恵まれない子どもの支援事業だと言っても、自分などに明慶学園の奨学生の話を打診されたことを疑わなかったわけでは無い。それでも食いついたのは、施設にいる子どもの数が、定員を越えている現状を考えた、綿貫なりの配慮でもあった。
入学金や授業料は勿論、寮費、食費、学校行事にかかる費用、教科書代、はては制服の代金まで、全て無料だ。娯楽や嗜好品を一切排除すれば、生きて行くことは出来る。ならば、綿貫に断る理由などなかったのもある。
「だからね、一ヶ月の間、俺が面倒見て上げるからね」
目の前にいる男の名前は何と言ったか。確か三沢だ。先ほど自己紹介をされたが、人の名前を覚えるのは苦手なので、思い出すのに時間がかかった。
三沢に呼び出されたのは、入学式が終わり寮に帰ろうとした時であった。綿貫の教室まで来た三沢に呼び止められて、生徒会室の隣にある明慶会の部屋に来いと言われたのだ。
何故か、その様子を見たクラスメイト達がクスクスと笑っていた。感じが悪い。いや、それは今に始まった話ではない。入学前から綿貫に対する態度は皆そうであったのだ。
明慶学園は全寮制だ。入寮は十日前に済ませているが、入寮してからすぐに、周りの視線が綿貫にあることに気がついていた。
高等部から入学する生徒は少ないと聞いているので珍しがられているのだろうと思っていたが、それにしても不躾な視線が多いとは思っていた。時折上級生がすれ違い様に、今年のナンバーワンだな、楽しみだ、と言うこともあった。
意味が分からず同室の山村に聞いても、話をはぐらかされた。山村は綿貫と交流を持つ気はあまりないのか、綿貫が部屋にいる時は別の部屋にいるか、カーテンを閉めてベッドに引きこもっているかだ。
お陰で、すっかりこの学園で浮いているという事に慣れてしまった。そして三沢に呼び出されたことで、何か良くないこと、まさかこういう学校であるとは思わないが、いわゆる上級生にしめられる、ということをされるのだろうということを覚悟をした。
しかし、今言われたことは綿貫の想像以上のことだ。奨学生はクイーンとならなければならない。つまり、生徒相手の男娼だ。週に三回、予約を受けて誰かと寝るのだ。しかし、急に男とセックスすることは出来ない。そのため、三沢が綿貫の尻を慣らしてくれるというのだ。
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