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綿貫碧(わたぬき あおい)1-2
色々と理不尽な事をされてきたが、ここまで行くと笑いさえこみ上げてくる。うまい話にはやはり裏があるのだと思った。
部屋の中には三沢と二人きりだ。元生徒会副会長だったという三沢は、すらりと高い背に、鍛えられた体躯。髪は綺麗にセットされ、二枚目俳優のような華やかさがある。雰囲気で誤魔化しているだけではなく、顔の作りも良い。少し垂れた目が優しそうだが、その話し方と相まって、どこか軽薄そうな匂いがする。相当女にもてるのだろうなと思った。
「いいですよ。俺、別に初めてじゃないですから」
綿貫がそう言って三沢の顔を見た。じっと見つめてくるその目は、綿貫の言葉を聞いて、少し色を変えた。
「どういうこと?」
「俺、施設育ちなんですよね。あぁ、知ってますよね。奨学生はどうせ、そういう生徒ばかりなんでしょ。俺の施設はあまり環境が良くなかったから、ケツ掘られるくらい、経験ありますよ」
「は?」
三沢の目の色が更に変わる。怒っている。綿貫はそう感じたが、何故三沢が怒っているのか分からなかった。
「誰にされたの?」
「誰って、言っても仕方ないですよね」
三沢はむっと口を閉じると、またじっと綿貫の顔を見下ろしてきた。
「セックス好きなの?」
「別に好きじゃ無いですよ。女の子とするのは気持ち良いけど、男とするのは痛いだけだし、気持ち悪い」
「じゃあ、何でするの?」
それに綿貫は思わず笑ってしまった。
「何で、ってそんなのこっちが聞きたいですよ。何で俺が、って。何でなんですか? 先輩。教えてください」
それに三沢はうーんと、首を傾げた。
「あおちゃん、思ってた以上に気が強いんだね」
突然名前、しかも渾名で呼ばれたことに驚きながら、綿貫はムッとした顔をした。
「じゃあ、こんな感じなら良いですか? 分からないんです。俺、女の子じゃ無いのに何で……」
弱々しい顔をして見せながら、口に手を当てて目を潤ませてみた。それを見た三沢が吹き出す。
「ちょっ、いいね。それ。可愛い」
「そうですか。でも、可愛くても男ですよ。男のケツに突っ込んで面白いんですかね。まぁこんな環境じゃしょうが無いか」
こんな環境で無くても、綿貫は男に狙われたことは多々ある。全く知らない変質者から、学校の教師、施設にいる大人、果ては施設にいる年上の子ども、様々だ。
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