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綿貫碧(わたぬき あおい)1-4

「すごーい。もう予約が入っていくね。あおちゃんね、大人気みたいだよ。こんな可愛い子、滅多にいないからね。うわー、全部埋まりそうだねー」  そう言って三沢がスマートフォンを見せてきた。綿貫は、それを何の感慨も無く見た。 「誰が予約したか見てみる?」 「別に良いですよ。誰が相手でもやることは変わらないですから」 「ふーん」  三沢はそう呟くと、スマートフォンをしまった。 「嫌なプレイ内容は断って良いからね。フェラとか縛りとか、やりたくなければやらなくて良いし、触られるのも、触るのも、基本お互いの合意の上でね」 「優しいですね。でも挿入あり? どんな風俗ですか」 「まぁね。変な所だよね。でも、面白い」  面白くねぇよと思いながら、綿貫はじろりと三沢の顔を睨んだ。 「オナホになれってことですかね」 「最高級品だね」  にっこりと笑う三沢に、綿貫はゲスが、と心の中で呟く。三沢は綿貫の様子に全く動じることは無く、三人掛けのソファに座ると、長い足をソファの肘掛けにかけた。 「じゃあ、これで」  もうこんな風に話すことはほとんどないだろうと思いながら、綿貫は明慶会の部屋を後にした。  何だか独特な雰囲気な人だったな。綿貫は廊下を歩きながらそう思った。一度話したら忘れられない強い印象を持つ男だ。しかし、わざわざ公衆便所の男と寝るような男でもなさそうだ。今後、偶然会う以外は顔を合わせる事は無いだろう。  綿貫は一人寮に帰りながら、三沢の顔を何度も思い浮かべていた。ここの学園は良くも悪くも、育ちの良い人間が多い。だからこそ、疑問も持たずに俗習に従うのだろう。誰もが競争や諍いごとなど知らないという、面白みの無い表情をしている。  しかし、三沢は違う。高価なソファに座ることも、ちらりと見えた高そうな腕時計も、指に光る指輪も、どれも違和感なく似合っている。それらはその容貌を引き立てる事はすれども、見劣りさせるような事は無い。  生まれながら持てる者だ。しかし、それでも他の生徒とはどこか一線を画しているように見えるのは何故だろうか。そして、何故自分は少し話しただけの男の事をこんなに考えているのだろうか。  綿貫は今まで人とは関わらないようにしていた。いや、人のことなどどうでも良かった。そうしたほうが安全で、傷つくことも無いからだ。それなのに、三沢のことが頭から離れず綿貫を苛立たせた。  寮に戻り食堂に行くと、ほとんど人はいなかった。昼食を受け取り席に着くと、残っている生徒が、こちらを見てクスクスと笑う。      

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