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綿貫碧(わたぬき あおい)2-1

 綿貫は、自分に割り当てられた部屋で豚が来るのを待っていた。  部屋の中にはベッドと小さな棚が一つある。その棚を開けると、中にはコンドームとローションがあったが、さすがに大人の玩具などは無かった。  寮の一階の奥には五部屋ほど部屋がある。そこがいわゆるヤリ部屋で、クイーンが生徒の相手をする部屋だ。一つの棟でクイーンはだいた5人から7人だと言う。受け持つ曜日はそれぞれが割り当てられているので、部屋によっては二人のクイーンが交互に使っていることになる。シーツは洗濯されたものが置かれていたが、それでも汚ねぇな、と思いながら、綿貫はコンドームとローションを枕元に置いた。  時間が九時になるのと同時に、ドアが開く。綿貫は入ってくる人物の顔を見るべきかと思ったが、すぐに興味を失った。どうせ誰が来ても同じだからだ。 「こんばんは」  かけられた聞き覚えのある声に、ベッドに座っていた綿貫は顔を上げた。そこには、三沢が立っていた。 「あ……」 「電気、消そうか。それとも、明るい方が好き?」  別にどっちでもいい。そう思っていたが、三沢の姿を見た瞬間、急に恥ずかしくなりコクリと頷いた。  明かりは消されたが、それでも足下では、電源に刺さった小さなLED灯が淡い光を放っている。 「座っても良い?」  ベッドを指して言う三沢に、綿貫は頷いた。 「緊張してる?」 「いや、別に……」  嘘だ。先ほどまで緊張などしてはいなかったが、三沢の顔を見た瞬間、居たたまれない気持ちになっていた。 「そう」  三沢は答えると、綿貫の手を握ってくる。それに、始まるのかと思って、綿貫は少し身を固くした。 「三沢さん、彼女いないんですか」  喉がカラカラに渇いたようになり、声が上手く出すことが出来ない。何故こんな話をするのだと自分自身に呆れるのと同時に、この男も所詮豚なのだと思った。 「いないよ」 「モテそうなのに」 「そうだね。モテるよ」  自分で言うな、と内心で突っ込んだが、モテないと言われれば謙遜を通り過ぎて嫌味に聞こえたであろう。素直に答えてくれた方がまだ良い。 「だったら、こんなゲスいことしなくて良いんじゃないですか。タダで出来るなら、やっておかないと損?」  それに三沢は笑った。 「違うよー。あおちゃんと会いたかったの」 「はい?」 「話し、しようか」  何を言い出したのかと思って三沢の顔を見ると、そこには得体の知れない目があった。     

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