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綿貫碧(わたぬき あおい)2-4
「俺は4歳の頃に施設に入れられました。そのとき、すでにその子はいて、凄く良くしてくれました。俺のいた施設、あんまり良い施設じゃ無かったんですよね。喧嘩とか放置だし、歳が上の子は年下の子、しょっちゅう虐めて、結構酷かった。でも、その子、しゅうちゃんて呼んでたんですけど、しゅうちゃんは凄く頭が良くて、力も強かったし、大人も年上の子も、しゅうちゃんには一目置いてて、誰もしゅうちゃんを虐めなかった。そのお陰で、俺は虐められないで済んだ」
「いなくなって、虐められた?」
「そうですね。まぁ、普通に」
そう言って綿貫は笑ったが、口元が引き攣る。気づかないでくれと思いながら、すっと視線を三沢からそらした。
しゅうちゃんがいなくなって、綿貫への虐めは急に始まった。頭が良く、宿題をやってくれたり、困ったことを解決してくれるしゅうちゃんは、ある意味秩序の中心でもあった。そんなしゅちゃんがいなくなったことで、たがが外れたのだろう。また、そんなしゅうちゃんを良く思っていない子も多く、その鬱憤が全てしゅうちゃんに可愛がられていた綿貫に向かった。
殴る、蹴るは勿論、おやつを奪われたり、小遣いを奪われた。そして性的な悪戯も多くされた。初めてアナルセックスをさせられたのが十二歳の時だ。三人に押さえつけられ、レイプされた。
肛門は切れ、血が流れた。その後、何度も陵辱されたが、初めてのときの体験は一番思い出したくない出来事だ。
その話を人にしたことは無い。する意味も無く、また、どうしてもしたくなかった。なので、今も笑って誤魔化すしか無い。
「その子に、会いたい?」
三沢の言葉に、綿貫は首を横に振った。それに三沢が、頬をピクリとさせたのが見える。
「何で?」
「しゅうちゃんは、凄く良いところに引き取られたんだって聞きました。頭、凄く良かったんです。天才児、ってやつ。だから、結構大きくなっているのに引き取られたみたい。今頃はきっと、幸せになってます。俺なんかと会っても、きっと覚えてないし、覚えていても、俺なんかと会ってくれませんよ」
「そうかな。そんなこと、無いと思うけど」
「そうですね。しゅうちゃん、優しかったから、そんな事無いか。でも、今の自分を見せたくない。凄く惨めです」
これ以上言ったら泣きそうだ。綿貫はそう思って、にっこりと笑って三沢の顔を見た。
「ほとんど話した事無い先輩に、俺、何言ってるんですかね」
「ううん。嬉しいよ」
三沢はそう言うと、綿貫の頭を撫でてくれた。
「お風呂はもう入った?」
「入りました。クイーンの特権ですね」
風呂の時間は学年ごとに決められていた。三年生が19時から20時。二年生が20時から21時。21時から24時まではフリーの時間と決まっている。
下の学年の時間帯に入るのは許されているが、上の学年の時間帯に入るのは許されていないので、21時を回らないと、一年生は風呂に入れない。
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