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綿貫碧(わたぬき あおい)2-17

「うん、いいよ」  喉が渇いたと思って三沢を膝からどかすと、部屋の中に備え付けられている洗面所の蛇口を捻り、水を出す。両手に水を貯めてそれを飲んだ。 「何、喉渇いたの? そんな水飲まないでよ。飲み物、あるよ」  三沢が部屋に置いている小さな冷蔵庫を開けた。 「何飲む? 水と、スポーツドリンクと、コーラあるよ」 「別に良いです。この水、飲める水ですよね」 「でも、おいしくないでしょ」 「美味しいですよ。東京の水に比べると、凄く美味しい」  三沢は顔をしかめると、冷蔵庫のドアをしめた。 「俺が上げる飲み物は嫌だ?」 「いえ、そういうんじゃないです。ただ……」  ただ、何だろうか。綿貫は思う。誰かから物を貰うのは嫌いではない。施設で育ち、常に奪われてきたせいか、どちらかというと卑しい方だ。くれるという物は貰うが、そうかといって、誰彼構わず貰うわけではない。貰う時にはその対価を渡さなければいけないことも多いからだ。目先の利益に囚われ、痛い目に合ったことも何度かある。対価の大抵が、セックスであるため、物を貰う時には、対価が必要か、そしてその対価がどう言ったものなのか、慎重に探るようになっていた。  では、三沢はどうなのか。飲み物一本貰ったかといって、体を求めてくる訳でも、感謝をくれという訳でもないであろう。しかし、何故か嫌だと思った。 「こんなので、恩を売るつもりはないよ」 「いえ、ただ、もう飲んじゃったから、いらないだけです」  言いながら、恩を売るとかそう言うことではなく、ただ、三沢に施しをうけたくないのだと気がついた。下らないことだ。しかし三沢には、施しを受けるクイーンだとは思われたくない。 「ゴールデンウィーク、どうするの?」  ベッドに腰掛けると、三沢が綿貫の後ろに座り、後ろから抱きしめてきて、頭の上から話しかけてくる。 「バイト、しようと思ってます」 「バイト? 何の?」 「よく分からないけど、施設の知り合いに紹介して貰ったバイトです。結構給料良いみたいで」  今の自分は、施設にいる時に貰った小遣い2132円を持っているだけであった。それこそ、ペットボトル一本買えない。さすがにこれはきついので、金を稼がなければならない。          

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