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綿貫碧(わたぬき あおい)3-2

 誰も守ってなどくれないなら、自分の足で立つしかない。しかし、自分にはその気概も、知恵も無い。今でさえ、どうすればいいのか思いつかない。考えても考えても、良い答えなど見つからず、導いた答えはいつも間違っている。  綿貫は泣きたくなってきた。子どものように泣いて、地面にしゃがみ込んでしまいたい。しかし、そんな事をしても誰も助けてはくれないだろう。  綿貫は立ち上がった。それでも、何とかしなければならない。自分にあるのはこの身一つだ。どうせ捨てたプライドなのだ。己を削り落としながら、墜ちていくとしてもやるしかない。  新宿まで行けば何とかなるのかも知れないと綿貫は思った。しかし、女ならまだしも、男がどうやって客を取るのだろうか。スマートフォンも持っていない。出会い系に辿り着くことも出来ない。財布の中の残金を確認し、漫画喫茶に行ってパソコでも見てみようかと考える。 「あおちゃん」  そんな事を考えていると、聞いたことのある声が聞こえてきた。そんな風に自分を呼ぶのは一人しかいない。しかし、彼がここにいるわけはないので、空耳だと思って綿貫は顔を上げることはしなかった。すると、後ろから肩を掴まれてしまい、ようやく綿貫は振り返った。 「……三沢、さん?」 「こんな所で何してんの?」  それはこっちの台詞だと思いながら、綿貫は呆然と三沢の顔を見た。 「近くに施設があって……三沢さんは?」 「あぁ、バイトするって言ってたもんね。俺はあおちゃんに振られちゃったからさ、家に帰ってるの」 「家、この近くなんですか?」 「そっ。あおちゃんはバイト、行かないの」  綿貫は少し気まずいと思いながらも頷いた。 「ちょっと事情で、バイトなくなりました」 「そっか。じゃあ、うちにおいでよ」 「え、でも」 「いいから、ほら」  三沢が綿貫の手を握ってきた。慌てて払おうとしたが、三沢は全く意に介さず綿貫の手を引いていく。  行き交う人々が一瞬だけ二人を見てきた。しかし、三沢は全く気にしない。綿貫はその視線が痛いと思いながらも、今まで感じていた孤独感がすっと無くなっていくのを感じた。  三沢に連れて行かれたのは、二駅先にある駅から徒歩五分くらいの高層マンションだった。何故あの駅で途中下車をしたのだろうかと綿貫は考える。急に引き取られた3人の顔を思い出しながら、何かがおかしいと思ったが、考えないことにした。この男が自分と出会うためだけに、そんな事をするわけはない。愚かな考えだと思ったが、三沢の得体の知れない何かが消えるわけではなかった。   エントランスに入ると、フロントにいる男がお帰りなさいませと言ってお辞儀をした。何だかドラマの中にいるみたいだと思った。         

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