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綿貫碧(わたぬき あおい)3-6
「遠慮しないでよ。遠慮されたら頼んだ意味ないでしょ。俺はあおちゃんが喜ぶ顔が見たかっただけなのに」
綿貫は寿司をモグモグと食べながら、思わず美味しいと呟いた。
「あ、言ってるそばから……ごめんなさい。でも、ウニって見た目が気持ち悪くて食べる気にならなかったけど、凄く美味しかったから」
「それでいいんだよ」
そういって三沢はサンドイッチを口に入れた。
どうしよう。泣きそうだ。綿貫は思った。こんな風に優しくされたら駄目になる。この人のこと、好きになってしまう。綿貫は涙が出ないようにぐっと堪えて、水を飲んだ。
腹一杯食べると、三沢が冷蔵庫からケーキの箱を出してきた。箱を開けると、丸いホールのショートケーキが入っている。
「甘いものは別腹?」
「はい」
丸いケーキだなんて、どうしたのだろうかと綿貫は思った。誰かのお祝いをするつもりだったのだろうか。
「三沢さんの誕生日とか?」
「ううん。違うよ」
「じゃあ、何で丸いケーキ?」
「あおちゃんと出会えたお祝いかな」
何を言っているのだと思って、綿貫は苦笑いをした。
「そんな冗談。俺が来るだなんて分からなかったんじゃないですか」
「分かったよ」
「え?」
三沢はにっこりを笑うと、はい、と大きなフォークを渡してきた。
「二人しかいないから、このまま、食べちゃおう」
三沢はそう言って、ケーキに直接フォークを刺して食べ始めた。
「凄い。これ、ワクワクします」
「でしょ」
「三沢さん、甘いもの好き?」
「大好き。普段はコンビニスイーツだから、帰ってきた時は美味しいスイーツ、沢山食べるんだ」
甘いマスクに似合っている気もするし、似合っていない気もすると思いながら、綿貫は笑った。
「あぁ、クリーム鼻に付けて」
三沢が綿貫の顔を見てそう言うと、ペロリと綿貫の鼻を舐めた。そして、じっと綿貫の顔を覗き込んでくる。舐められた事と見つめられる事に顔が熱くなっていくのを感じた。
ケーキを食べ終わり、片付けようとしたら手を引かれてソファに連れて行かれた。
「片付けないと」
「後で片付けよう。食休み」
「ご馳走様でした。本当に、幸せでした」
「いくらでも、幸せにしてあげるよ」
三沢のこの甘さに、落ちない人間などいるのだろうかと思いながら、綿貫はへらっと愛想笑いをして、その言葉を交わした。
「ところでさ、どうやってここまで来たの?」
「え?」
「電車賃、どうしたの」
「あ、それは……」
綿貫は口ごもる。突かれたくない所を突かれたと思ったが、それを三沢に言う義務はない。
「お金、貯金あったから」
「でも、この間聞いた時、そんな感じじゃ無かったよね」
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