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綿貫碧(わたぬき あおい)3-10
***
綿貫は連れてこられたアパレルショップに萎縮して、ぎゅっと身を固くしていた。
お洒落すぎる。ここにいるのが居たたまれない。しかも、三沢は綿貫の手を恋人のように握りながら離さない。
だが、そんな様子に店員は全く動じることなく、営業スマイルで応じている。プロだからなのか、それともこんな三沢に慣れているからなのか。
「どんな感じが、お好きですか?」
「あんまり、良く分かりません」
「じゃあ、竹川さんがこの子に似合いそうな服、上下で10着くらい見繕ってもらっても良いですか」
「三沢様は、恋人にこんな服を着て貰いたいとかありませんか」
恋人? 綿貫は違うと言おうとしたが、三沢がその前に言葉を発したので、言うタイミングを逸してしまった。
「俺は何でもいいよ。俺も服とか良く分からないから。竹川さんのセンス、信頼してるからお任せ」
「ありがとうございます」
竹川と言われた店員は、店内を歩き回って服を手に取り始めた。三沢が待っている間ブラブラと服を見始めたので、同じように綿貫も近くにある服を見て、値札をチラチと覗いた。
綿貫はその金額に驚愕して固まる。ゼロが一つ多いのでは無いかと、もう一度、一、十、と数えていく。
「三沢さん、この店、高くないですか」
ひそひそ声で言うと、三沢はそうだね、と答えた。
「高いよね」
「じゃあ、何で」
「お金あるから。何でお金があるのに、あおちゃんに安い服買わなきゃいけないの」
「俺、別に服も欲しくないし……」
綿貫が持っている服は二着だけ。それも、もう二年も着ているためボロボロで、少し寸足らずだ。そのため、三沢が服を買ってくれると言いだしたのだ。
一緒に歩くのが恥ずかしいのだろうと、その提案は受け入れたが、何もこんな高い店では無くても良いと思う。しかも、10着もいらない。
「やっぱりお金持ちは、次元が違って、俺、疲れます」
「そう? 早く慣れて」
「慣れたら、まずいでしょ」
こんなのに慣れたら拙いというのは、馬鹿な自分でもわかるのだが、三沢は全く介していなかった。
「こちらでいかがでしょうか」
竹川が持ってきた服を、店の真ん中に置かれているガラスの棚の上に並べていく。
「可愛いね。どう?」
「どうって……」
置かれた服の中には、レディースもあった。勿論いかにも女性物ではないのだが、ちょっと顔が引き攣ってしまう。それに気がついたのか、竹川がフォローをしてきた。
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