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綿貫碧(わたぬき あおい)3-11
「お客様の顔だと、こう言った色が映えるんですよ」
考えてみたら、自分の体型ではメンズではサイズがないのだろう。しかし、竹川は気を遣ってそこは言わないでくれている。折角選んでくれたのだしと思い、これでいいです、と呟いた。
竹川が見繕ってくれた服に着替えると、三沢が嬉しそうに笑う。
「似合ってるね。さすが竹川さん」
「ありがとうございます」
「じゃあ、服は家に送っておいてください」
そう言って、三沢は再度綿貫の手を繋いで店を出た。その瞬間、周りの視線が突き刺さる。それが痛いと思ったが、あいかわらず三沢は気にしていない。
「凄いイケメン」
声が聞こえる。まぁ、そうだよな、と思って綿貫は三沢を見上げた。
「彼女も可愛い」
え、と思って綿貫は声の聞こえた方を見ると、若い女の子二人組が、慌てて視線をそらした。
「俺、女と間違えられてる」
「ハハ……あおちゃん、可愛いから」
「屈辱……」
見られているのは、男同士で手を繋いでいるからではなく、三沢だったのだと思って安堵はしつつも、複雑であった。
「あ、そうか、これ、女の子にも見える格好ですもんね。だからあの店……」
「違うよ。俺はあおちゃんを女の子にしたかったんじゃないよ。それに女の子の格好させるときは、こんなんじゃなくて、もっとがっつり女装させるからね」
それも楽しそうだな、とブツブツと呟いている三沢に呆れながら、この人は何故、自分の思っていることが分かるのだろうかと思った。
「どこ行こうか。行きたい所は本当に無いの?」
綿貫は聞かれて、昨日テレビでやってたB級グルメの祭典というのに行きたいと思った。美味しそうだし楽しそうだ。しかし、三沢はそう言うところには行かないだろうと思って、口にはしなかった。
「あるんでしょー」
「え?」
「顔見れば分かるよ。あおちゃん、隠すの下手くそ。ほら、言って」
やっぱり三沢には自分の考えていることが分かってしまう。綿貫は観念して答えた。
「昨日テレビでやってた……」
「B級グルメの?」
「何で、何でも分かるんですか」
「だって、昨日美味しそうって食いついてたでしょ」
「でも、三沢さんはそういうの、好きじゃないですよね」
三沢はそれに首を傾げた。
「好きだよ」
「本当ですか? 無理してません?」
「何で」
「三沢さんみたいなお金持ってる人が、そういうの食べるんですか」
三沢はキョトンとした顔で綿貫を見た後、声を立てて笑った。
「あおちゃんの金持ち像、どんななの」
「いや、知らないですよ。お金持ってる人がどんなかなんて」
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