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綿貫碧(わたぬき あおい)3-12

「あおちゃん勘違いしてるけどさ、俺も小さい頃、施設にいたんだよ。今の両親に引き取られるまでは、あおちゃんと一緒」 「え?」  綿貫は三沢の言葉に、しゅうちゃんの事を思い浮かべていた。まさか、と思ったが、そんな筈はないと思い直す。そうであれば、もっと早くに言ってくれるはずだ。それにもし本人であるのに言わないとしたら、忘れられているのだろう。それこそ、一番知りたくない事実であるため、敢えてこちらから聞くことも無いと思った。 「お金はね、欲しいよ。沢山欲しい。お金があれば、大抵のことは解決出来るでしょ。俺はこのお金で、大切な子を沢山幸せにして上げたい。俺も、沢山幸せになりたい」  綿貫は三沢の言葉に、以外に単純なのだと思って、少し安堵した。 「俺、初めて、三沢さんを身近に感じました。それ凄い分かります。俺達みたいな育ちをしてる人間ほど、金って大事だなって思いますよね。でも、俺は三沢さんみたいに頭良くないから、ずっと底辺かな」  三沢は綿貫の頭を自分の胸に引き寄せると、ぽんぽんと頭を叩いてきた。何を言いたいのかはわからなかったが、三沢なりに慰めているのだろう事は分かった。  その日は一日、楽しかった。美味しいものを、食べて食べて食べて、お台場に行って観覧車に乗って、海を見て、こんな一日は初めてであった。  三沢のマンションに戻り、綿貫はまだ夢の中のようだと思った。ソファにゆったりと座っている三沢に、深くお辞儀をする。 「今日は楽しかったです。ありがとうございました」 「そう。良かった」  日は既に暮れている。夜景が見たいと思って、三沢にベランダに出てもいいかと聞くと、三沢は頷いた。  ベランダに出てキラキラと光る夜景を見ていると、三沢もベランダに出てきて、後ろから抱きしめてきた。  人とくっつくのが好きな人だと思った。人肌恋しいのは、施設にいたからであろうか。そう思えば仕方が無いなと思って、腰にまわされた手に自分の手を重ねた。 「綺麗ですね」 「うん。あおちゃんと見ると、更に、綺麗に感じる」  そう言って綿貫の顔に、自分の顔を近づけてくる三沢の顔を、綿貫は見上げた。もしかして、キスをしてくれるのだろうかと思ったが、三沢はにっこりと笑って綿貫の額にキスをしてきただけであった。  ドキリと胸が高まったの同時に、酷く苦しかった。息が出来ない。窒息しそうだと思って、三沢から視線をそらした。  もう手遅れだ。今更ながらに綿貫は思った。三沢が好きだ。三沢が欲しい。確かにそう思ったが、しかし、三沢は気まぐれのように綿貫を可愛がってくれてはいても、キスもくれないのだ。三沢にとって、綿貫は一体何なのだろうかと思った。      

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