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綿貫碧(わたぬき あおい)3-13

 それから、何も言葉を交わすことなく、二人で夜景を見ていた。ずっとこうしていたいと思っていたが、無情にも、開けていた窓から、訪問者を告げるベルの音が聞こえた。  三沢がそれに気がついて、すっと綿貫から離れていく。もうすぐ5月だというのに、体温が離れていくのに急に体が冷えたように感じた。綿貫は両腕で体を包み込むと、ブルリと体を震わせる。  しばらく一人で外を見ていたが、来客が入ってきたのか、急に華やかな女性の声が聞こえてきたので、綿貫は部屋の中に入った。  三沢に連れられて入ってきたのは、綺麗な女性だった。年上なのだろう。三沢が女性の耳元で囁くと、笑って三沢の部屋に消えていった。 「お客さんですか。俺、出ましょうか」 「いいよ、部屋に籠もるから大丈夫。お腹空いたら適当に食べて。お風呂も勝手に使って良いから。眠かったら、寝ても良いし」 「はい」  彼女が何のために来たのか、すぐに綿貫にはわかった。先ほどまでの気分が急激に下がっていく。三沢といるといつもこうだ。期待しては落とされる。では、もう近づかなければいいのだが、三沢はいつも絶妙なタイミングで現れては、綿貫の心を鷲づかみにしてしまう。綿貫にはあらがいようがなかった。  綿貫はしばらくリビングのソファで座っていたが、女の嬌声が微かに聞こえてきたのと同時に、立ち上がると外に出て行く。防音はしっかりされているのに、どんだけ声がデカいんだよ、馬鹿女、と心の中で毒づいたが、男の自分よりは何倍も良いのだろう事はわかっていた。  ふらりと外に出たが、行くところがないと思った。昼間は暑いくらいだが、夜になると大分寒くなる。長袖のシャツ一枚では寒いと思ったが、歩けば温かくなるだろうと思って、行く当てもなく歩いた。  こんな時間に、一人、散歩をするのは初めてだと綿貫は気がつく。そう思えば、悪くは無い。そういえば、三沢と出会ってから初めてを体験することが多い。それはどれも楽しかった。  こんなに貰っているのだから、彼女が来たくらいで心を揺るがせるのは、図々しいと反省した。貰う物が多すぎて、感覚が麻痺している。  では、三沢にとっては自分は何なのだろうかと考える。色々と考えた結果、ペットだと答えを出した。そしてその考えが妙にしっくりしていて、納得もする。三沢にとって、自分はペットだ。人よりも可愛い顔に惹かれたのだろう。顔が可愛くて良かった。そして、そんなことを思うのは、幼い頃、しゅうちゃんに可愛いと言われた時から二度目だった。  飽きられないように、頑張ろう。綿貫はそう思う。しかし、これから背が伸びるかも知れないし、髭も生えてくるかも知れない。自分が男らしくなったら、三沢は飽きるのかなと思うと、少し怖かった。     

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