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綿貫碧(わたぬき あおい)3-14
一時間ほど歩くと、隅田川が見えてきた。まだまだ人は沢山いる。ライトアップされたスカイツリーが綺麗だと思い、空いているベンチに座った。
川には屋形船が浮かんでいる。スカイツリーを見るために止まっているのだろう。空には星など見えないが、キラキラと光る地上の星は酷く綺麗で、何故か綿貫は泣きたくなってきた。
好きだ。三沢が好きだ。どうしていいのか分からない。女だったら良かったのか。それとも、三沢のように賢ければもっと違っていたのだろうか。いつも自分は選択を間違える。あんな学校に行かなければ、三沢と出会う事も無かったのにと後悔をした。
三沢といるとフワフワとした気分になって、夢の中にいるように凄く幸せで、楽しいのに、離れると酷く惨めになる。自分が消えてしまえば良いのにと思うほどに惨めになる。恋なんて、一つも良い事など無いと思った。
「待ち合わせ?」
若い男が話しかけてきたのに、三沢は顔を上げる。20代くらいだろうか。どこにでもいる普通の男だった。
「あれ、高校生? いくつ?」
「十五です。それに、俺、男です」
「そっか。可愛いと思って話しかけちゃった。ごめんね」
そう言って男は苦笑いをした。
「何してるの?」
「何も」
誘われるのかなと思ったが、男は綿貫の予想とは違う言葉をかけてきた。
「危ないから早く帰らないと駄目だよ。ホームレスも多いし、変な人も多いよ。家出じゃないよね」
「違います」
「じゃあ、親御さんが心配するから、早く帰らないと」
「親はいません」
「訳あり?」
男はそう言って、隣に座ってきた。
「ううん。今日は友人の家に泊まってるんですけど、友人が女を連れ込んでて……」
それに男は笑った。
「そういうことね。それは気まずいよね。でも、それはルール違反だよ。怒って良いよ」
「そうなんですか」
「そうだよ」
風が吹いたので、綿貫が体を少し震わせた。
「寒そうだね。ご飯は食べたの?」
「まだです」
「ここで会ったのも何かの縁だよね。何か奢ろうか」
「俺、男ですよ」
「もうそれは諦めたよ。俺もちょっと寂しかったから、話しかけただけ」
「そうですか」
綿貫は、直感的にこの人は悪い人ではないとわかった。良い人かどうかはわからないが、悪い人は何となくわかるのだ。そしてそれは、大抵が当たっている。
綿貫は男に誘われるまま、近くにある定食屋に入り、色々と話をした。男はもともと東北の出身であったが、東京にある営業所に配属になり東京に来たようだ。仕事は問題ないが、知り合いがおらず、ホームシックにかかっていたところだと言う。
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