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綿貫碧(わたぬき あおい)3-15

「連休中に地元に帰ろうかと思ったけど、帰ったら戻りたく無くなりそうだから止めたんだ。でもやっぱり寂しくてフラフラしてたら君がいて、何となく寂しそうだから、話しかけたんだ」  男は綿貫の話も聞いてくれた。狭い世間で生きてきて、今も狭い箱庭で理不尽な状況を享受している綿貫には、全く関係のない大人と話すのは楽しいのと同時に、目の前が拓ける感じがした。 「そろそろ、友達の彼女も帰ったんじゃないかな。もう遅いし、帰った方が良いよ」 「お礼は?」 「え?」 「奢って貰ったし、何かお礼しないと。でも、男は範囲外なんですよね」  男は言われたことが分からないという顔をした後、ようやく意味が分かったのか、少し驚いた顔をした。 「何言ってんの。一体君は、今までどういう……」 「あ、ごめんなさい。俺……」  まともな人はこういう反応をするのだと思いながら、綿貫は言ったことを後悔した。 「説教みたいになるけどさ、まだ若いんだし、そういうのは駄目だよ。それに、俺は話し相手が欲しかっただけだから、お礼なんていらないよ。君からみたらおっさんだろうけど、色々と相手してくれて嬉しかったよ」 「はい」 「君は人の話もよく聞いてくれて、凄く優しい子だよ。顔も良いし、優しんだから女の子にもモテるよ。もっと自信を持たないと」  男はそう言うと、タクシーに乗せてくれた。歩くのには危ない時間だからと言う。断ったが、半ば無理矢理にタクシーに詰め込まれた。  綿貫は、一日の最後に良い事があったと思って、心が温かくなる。悪い大人、無関心な大人、下卑た大人は沢山見てきたが、こんな人もいるんだと思って、自分の世界が少しだけ広がった気がした。  タクシーはマンションの前で止まった。タクシーから降りると、マンションの前で三沢が待っているのが見える。それに綿貫は驚いた。  三沢は綿貫の姿を見ると、ツカツカと早歩きで寄ってきて、綿貫の二の腕を掴んだ。 「ちょ、痛い、三沢さん」  三沢は構わず綿貫をリビングに連れ込むと、ようやく手を離した。 「彼女、帰ったんですか」 「彼女じゃない」 「そうですか」 「あおちゃんはどこ行ってたの?」 「ブラブラと歩いていました」  三沢が強い眼光で睨んでくる。仄暗い光が見えた。あぁ、またあの目だと思って、綿貫は視線をそらした。 「でも、タクシーで帰って来たよね。タクシー代、どうしたの?」 「隅田川のベンチに座ってたら男の人に話しかけられて、夕飯奢って貰った。その人、親切でタクシー代も出してくれた」 「はぁ?」  三沢は大きな声を出すと、半ば怒鳴るように言った。 「何言っちゃってんの。また、体売ったの?」  それに、綿貫はかっとして怒鳴り返した。     

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