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綿貫碧(わたぬき あおい)3-16

「そんな訳ないだろ。皆が皆、明慶の奴みたいにゲスじゃねぇんだよ。ただお互い暇だったから話しただけ。そんなの、別におかしくないだろ!」 「駄目だよ! 相手がどんな奴か分からないのに、危ない目に合ったらどうするんだ!」 「俺は男だよ!」  三沢はぎゅっと口を結ぶと、表情をなくした。それは吐くべき言葉を探しているようであった。  珍しい。三沢は頭の回転が早いので、言葉に詰まることは今までなかった。それだけ怒っているのだろうか。それとも呆れているのか。 「男だから何? 今まで男達に散々やられたくせに、今更そんなこと言うんだ。そんなにセックスしたい?」  綿貫は落ち着けと自分に言い聞かせながら、深呼吸をする。 「彼女連れ込まれたら、出て行くしかないじゃないですか。第一、ルール違反じゃないですか。俺がいるのに女連れ込むなんて」  男に言われた話を思い出しながら、綿貫は勇気を出して言ってみる。すると、三沢は少しだけ笑った。 「彼女じゃないよ。セックスしただけ。ずっと女っ気無しなんだから、帰省した時くらい、発散させたいでしょ」 「じゃあ、俺は邪魔ですよね。三沢さん、だらしないって聞いてたけど、本当にだらしない。俺は、さすがにそういうのは嫌です。女連れ込むなら、誘わないでくださいよ。ちょっと、さすがにないです」  三沢はため息をつくと、やり過ぎた、と呟いた。 「え?」 「ううん。何でも無い」  そう言って、三沢は綿貫をぎゅっと抱きしめてきた。 「そうだよね、ごめんね。もう、誰も連れ込まないよ」  先ほどまでの激情を消し去った三沢は、一転、優しい声で囁いてくる。それに、あれほどまでにグシャグシャになっていた心が、すっと溶かされ、甘い毒に浸されていくのを感じた。 「だから、あおちゃんも一人で出て行っちゃ駄目。凄く、凄く心配したんだよ」  マンションの前で待つ三沢を思い出し、綿貫は頷いた。三沢はただ心配をしてくれていたのだ。例えそれが、ペットに対する思いと一緒でも良いと思い、今度は嬉しくなった。何て単純で簡単なのだろうかと我ながら思う。こんな自分を掌で踊らせるのは、三沢にとって朝飯前であろう。  そして三沢の体温に、体の奥から欲望がもたげてくるのを感じた。先ほど自覚した気持ちを思いだし、三沢の体温に目眩がしそうだと思った。 「でも、そうしたら三沢さん、どうするの?」 「どうするって?」 「その、夜とか。俺のせいで、その……」  綿貫は自分に、何を言っているのだと思いながら、冗談っぽく言えば大丈夫だと思って、ゴクリと唾を飲み込んだ。      

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