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綿貫碧(わたぬき あおい)3-17

「俺、相手しましょうか。男だけど、三沢さん男でもいけるんでしょ。オナホ代わりにはなりますよ」  へラッと笑うが、顔が引き攣るのが分かった。緊張で口の端が震える。笑顔が崩れそうで怖い。  何か言って欲しいと思って、怖々と三沢の顔を見上げるとと、三沢は綿貫から体を離した。そして一瞬だけ、口の端を上げて笑った。  あれ、と綿貫が思うと、すぐに三沢は笑顔を引っ込めた。この笑いはどういう意味だと考えるが、答えなどわからない。ただ、堪えきれなくて思わず笑ってしまったような、そんな笑顔であった。 「嬉しいよ、あおちゃん」  綿貫はそれに、良かったと思って胸がキュンと高鳴る。しかし、すぐに奈落の底に引きずり落とされた。 「でも、俺はクイーンを相手にするほど、飢えてないんだ」  その台詞は、以前高月が言っていた、三沢に告白した子が言われた言葉と一緒だった。目の前が真っ白になる。やっぱりいつも、自分は選択を間違える。 「あ……ごめんなさい」  足に力が入らず、綿貫はソファに座り込んだ。 「でも、それ、じゃあ、俺はどうすれば良いんですか。酷いです。俺だってクイーンになりたかった訳じゃない。どうすれば……学校を辞めろって事ですか」  冗談で済ますはずだったのに、気がつくと本音が口から出ている。しかし、それにさえ気がつかないほどに混乱をしていた。そしてそれと同時に、三沢が断るわけはないと、心のどこかで思っていたのだと気がついた。甘かった。ペットと寝る飼い主などいないではないか。  三沢は綿貫の隣に座ると、綿貫の顔を覗き込んできた。 「辞めなくても、クイーンじゃ無くなる方法、一つだけあるよね」 「え?」  何を言われたのか分からなくて、綿貫は回らない頭を懸命に動かした。 「俺からは言わないよ。あおちゃんから言って」 「分かりません」  三沢はため息をつくと、綿貫の頭を撫でた。 「俺のパピーになるって、あおちゃんが言って」  思わぬ言葉に、綿貫はじっと三沢の顔を見てしまった。 「え?」  何を言われたのか、また分からなくなる。三沢の目を見ながら、この人は何を考えているのだろうかと思った。しかし、自分などがそんなこと、分かるはずはない。  分からないことは考えても仕方が無い。ならば、三沢の言ったことについて、考えようと思った。三沢のパピーになれると言う事か。綿貫はその意味を理解し、少し手が震えた。この男のパピーになれば、もう誰にも抱かれなくても良い。何よりも、この男の所有物になれるのだ。これ以上魅力的なことはない筈だ。  綿貫は三沢の目をじっと見つめて、口を開いた。パピーにしてください。そう言おうと思った。         

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