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三沢修司(みさわ しゅうじ)2-2

 資金を回収したら、スーパーは潰れるだろう。経営の失敗で、どちらにしろ、そうなる運命だったのだ。ただ、立地の良さから、商売を立て直せばもっと儲かるだろうと思っており、そのための投資であった。しかしもう、そんなまどろっこしい事はやめだ。安く買い叩いて、丸裸にしてやる。そうすれば、この学園の馬鹿高い授業料は払えなくなり、豚はいなくなるであろう。 「そんなに苛々しているの、珍しいね。そんなに怒ったのも、初めて見たよ」 「別に……策に溺れた」 「ハハ……三沢でもそんなことあるんだ」  三沢は大きく深呼吸をすると、いつもの穏やかな口調に戻した。 「頭は良くても、感情はまだ未熟だったんだよね」  三沢が自分を冷静に分析すると、小湊は少し驚いた顔をして、いつもの優しい笑顔を浮かべた。 「あの子の事かな。まだ、パピーに出来てないみたいだもんね」 「蒼士だって一緒だろ。まだパピーにしてないよね」 「そうだね。困ったね。でも、もう少し今のままの関係でいたいんだよね」  三沢はその言葉に、内心で納得をした。肉欲を挟まず、ただ隣にいるだけの関係は、ある意味心地よい。甘やかし、笑顔を貰い、友人のように、兄弟のように過ごす。それさえ有ればいいとも思える。 「だけど、それは無理だ。俺達は小汚い雄犬だからね。そんな綺麗な場所には、いつまでもいられないよ」  三沢の言葉に、再度小湊はキョトンとした顔をすると、今度は口元だけを上げて自嘲するような顔をした。 「そうだね。その通りだ」 「それにいい加減、まずいんじゃない。もう5月だよ。クイーンを開放しないことに不満が出てるみたい。いくら蒼士だって、食い止めるのは限度があるでしょ」 「そうだね。確かに、もう限界だよね。俺も感じてる」  寂しそうな顔をする小湊に、三沢は少しゾクリとする。この男の、こんな顔を見る事は滅多にない。綺麗な顔にその哀愁は酷く似合っており、もっとぐちゃぐちゃにしてやりたい気持ちを駆り立てた。 「策って何? クイーンにしてからパピーにしようと思ったこと?」 「やっぱり蒼士ちゃん、犯してみたいな」 「は?」 「でも、あおちゃんが他の奴と寝るの嫌みたいだから、我慢かなぁ」 「人の話、聞けよ。三沢の頭の中、どうなってんの?」  それに三沢は笑いながら、作戦自体は半分以上成功だが、肝心のクロージングが出来ていないと思った。まだ、綿貫を手中に収められていない。  三沢が初めて綿貫に出会ったのは、6歳の頃だ。三沢がいた養護施設に入ってきた綿貫は、ふわふわの頭にクリクリの大きな目をしており、綿菓子のように甘く可愛かった。  ネグレクトされていたのか、それとも酷い目にあったのか、綿貫は全く喋らない子であった。知能に問題があるのかと思ったくらいだ。     

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