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三沢修司(みさわ しゅうじ)2-4

 思った通りに、綿貫はすぐに支配された。三沢の思うとおりに動き、三沢の存在が全てになっていった。  ただ誤算だったのが、同じように三沢も支配されてしまったことだ。この可愛い、綿菓子のような生き物に、三沢は全てを持って行かれた。全てを明け渡してしまった。  とにかく可愛いかった。ずっと一緒にいて離れたくない。自分だけがこの子を守りたい。三沢は己の人生の指標を、幼くして定められてしまったのだ。  それは、どんなに優秀な頭脳を持っていても、寂しいという感情を補う事は出来なかったからであろう。誰にも愛されず、誰にも必要とされなかった子どもが二人、寄り添うようにお互いを求めたのは当然とも言えた。  綿貫が施設に来た理由も、三沢と似たようなものであった。父親が女を複数人レイプして殺し、収監されたのだ。それを知った三沢は、その事実さえも利用した。  施設には、養子を求める大人がたまにやって来た。幼ければ幼いほど人気がある。しかし、4歳を過ぎた辺りから、希望はぐっと減ってくる。だが綿貫は、一目で見た者を蕩けさせてしまうような可愛さを持っていたため、養子縁組をしたいという希望者も後をたたなかった。  三沢はそういう大人が来るたびに、さりげなく近づき、連続殺人鬼の子どもである事を教えた。それでも諦めない大人には、大事にしていた野良猫を解剖されたという嘘を泣きながら伝えた。そのかいもあって、結局綿貫が引き取られることはなかった。  ずっと一緒にいられる。そう信じていた。そして、まだ精通も終えておらず、欲情するという意味を正しく理解していないうちから、三沢は綿貫をいずれ犯そうと決めていた。性行の意味はとっくに知っている。父親が母親を犯して支配したように、心だけではなく、体も支配するつもりであった。自分だけで、綿貫を満たし、支配するつもりであったのだ。  しかし、三沢の願いは、三沢が小学校四年生の頃に破られた。もう大きくなった三沢を、引き取りたいという夫婦が現れたのだ。  三沢はそれを拒否したが、夫婦は金を持っていたようで、賄賂を使ったのだろう。いい加減な職員は、三沢の拒絶をはねのけ、三沢を夫婦に引き渡した。  三沢は当初、問題行動を起こして施設に戻るつもりであった。しかし、その考えをすぐに覆した。それは、夫婦の家に入って、体で実感したからだ。  大きな家。温かく、隙間風も入ってこない。美味しい食事に、いくらでも勉強をする時間を与えられた。  これが必要だと、三沢はすぐに直感した。これこそが、自分に必要な物だ。         

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