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三沢修司(みさわ しゅうじ)2-5

 施設に帰って何が出来る。奨学金を貰い、大学に行って、良い企業で働く。安定した生活を得るためには長い道のりが待っているだろう。しかし、ここにいれば欲しいものはすぐに、確実に手に入るであろう。綿貫と一緒にいるためには遠回りのように思えたが、綿貫を確実に手に入れ守るためには、必要だと気がついたのだ。  もっとも三沢は、何度も養父母に綿貫を一緒に引き取って欲しいと頼んだ。養子縁組はしなくてもいい。里親として引き取って欲しいと言った。しかし、それは受け入れられなかった 。三沢を引き取った夫婦は、とにかく見栄っ張りであり、三沢を引き取ったのも、優秀な子どもの自慢をするためと、その頭脳を自分達の会社を支えるために使うつもりであり、三沢を愛する子どもとして育てるつもりはなかったのだ。  その時点で、三沢の中では、養父母はいらない人間になっていた。彼等には感謝している。彼等のお陰で沢山を学べた。そして、そのかいがあって、どうやって彼等の会社を乗っ取れるかもわかっていた。  三沢は、養父の弟の京之助(きょうのすけ)と連絡を取った。彼は、見栄っ張りで低脳な養父母とは違い優秀な男であったが、養父が親から引き継いだ会社の実権からは外され、課長止まりであった。それに不満を抱いていたのも知っている。  まず三沢は京之助の投資で、アプリの開発を行った。アプリの作成を依頼するには最低でも1千万円が必要だったが、京之助は自分の個人資金を投資してくれた。  幸いアプリはヒットした。次には、その資金で投資会社を何社か立ち上げ、その会社経由で養父母の会社の株の買い付けを行うことにした。  増資をさせるために新株の発行を行うように仕向けた。さほど怪しまれることはなかった。いや、怪しまれないように、役員を京之助に寝返らせておいたというのが正しい。  会社は無能な社長夫婦のせいで、経営が傾きかけており、投資という目先の利益に目がくらんだのだろう。株は難なく買い付けることが出来た。そして、京之助や役員の株も合わせると、株数は過半数を超え、社長夫婦はあっさりと解任された。  その頃、すでに三沢は見栄っ張りの養父母により、コネを作るためにと山奥にある明慶学園に放り込まれていた。  その報を聞いた時に、三沢は開放されたと感じたのと同時に、この後どうするべきかを考えた。綿貫を引き取るか。叔父の力を借りれば出来そうであった。しかし、まだ不安はあった。叔父が裏切らない保証はなく、そうなると、まだ未成年の自分には何の力もないと知っていたからだ。  会社は全て手放し、莫大な現金を手元に残した。金儲けは、しばらくやめだと思った。  そして、すぐに施設のそばにマンションを購入した。そこからは、自分がいた施設がよく見える。休日の度にそこを訪れると、三沢の心は、それだけで安らいだ。         

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