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三沢修司(みさわ しゅうじ)2-6

 探偵には逐一綿貫の報告をさせた。特に暴力を振るわれてる形跡はなく、ならば、もうしばらく待とうと思った。しかし、その選択は間違いだったと、今更ながらに思う。 「まさかさぁ、すでに男とやっちゃってるとは思わないよねぇ」 「そうなんだ」 「そうなんですよ。蒼士さ、油断してると子猫ちゃん、誰かに食われちゃうよ。蒼士ちゃんは、処女とか、そういうのこだわるでしょ」 「どうだろうね」  にっこりと笑う小湊に、こいつは「いる」人間だなと三沢は改めて思う。  自分は他人が思うほど複雑ではない。むしろ誰よりも単純だ。  いる人間かいらない人間か。それが欲しい物か欲しくない物か。ただ、それだけだ。そして、いる人間は全力で守り、欲しい物は全力をかけて手に入れるが、いらない人や物は躊躇なく捨てる。ただそれだけなのだ。  小湊のことは不思議と好いている。綿貫以外では初めての感覚だ。それは、小湊が自分と近いからであろう。同病相憐れむとも言えるのかも知れない。そして時には全く違うこの男を、複雑な思いで見つめる。  余裕な顔をしているが、内心では足掻いているはずだ。欲しい物が少ないのは自分と同じで、だからこそ、それを手に入れられなければ、死んでいるのと同等なのだ。 「それで、この後どうするの?」  小湊が、相変わらずの笑顔を貼り付けながら聞いてくる。 「どうしようかなぁ。待つしかないのかな」  三沢は答えながら、思った以上に手強かったなと思う。  綿貫を学園に呼ぶのは、これ以上無く良い案であった。いつもと同じように、飴と鞭で躾ければ、すぐに手中に落ちるはずだった。  しかし、第一の誤算は、綿貫が既に陵辱されていたという事だ。時間をかけてゆっくりとその身を暴き、快楽に沈めた後にクイーンに落として、絶望をさせるはずだった。そうすれば、すぐに三沢のもとに来ると思ったのだ。  まずはその思惑が崩れた。そのとき心の中に渦巻いたどす黒い感情は抑え込み、ならばと、嫌悪感を感じるような男をあてがった。しかし、それでも落ちては来ない。  それどころか、自分の心がさらに黒く染まっていく。自分が選んでおきながら、綿貫を抱いた男達を、バラバラに引き裂いてやりたいと思った。 「あおちゃんはさ、馬鹿だけど、愚かでは無いと思ってたんだ」  そして、綿貫が金で体を売ったと聞いた時に、綿貫は汚れを知らずに、いつまでもフワフワで甘いのだという幻想まで崩された。結局、綿貫も愚かな人間に過ぎなかったのだ。  ならば、もう後先構わず、綿貫を落とそうと思った。しかし、それでは駄目だ。綿貫から縋り付いて来ないと意味が無い。          

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