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綿貫碧(わたぬき あおい)4-1
食堂で昼食を食べていると、目の前に人が立ったのでチラリと視線をやった。
「ここ、座って良い?」
目の前には同じクラスの甲野と、瀬川がいた。
「やだ。他の所に……」
いけよ、という前に、甲野は綿貫の前に座った。
「え? 何?」
断られるなど思っていないのだろう。平然と座って飯を食べ始める甲野に、綿貫は呆れてため息をついた。
「聞いた意味ないよね」
「何が?」
その会話を聞いていただろう瀬川が笑う。それが余計に苛立ちを増加させた。
「学校の食堂も、飯、美味いよね」
甲野は美味しそうにモグモグと飯を頬張っている。この甲野という男は、天然だと言えば聞こえが良いが、要は無神経なのだ。
「最近さ、何かあったの?」
甲野が呟くように聞いてきたが、綿貫は聞こえないふりをした。
「元気ないけど、大丈夫? 何かあったら、役に立たないかも知れないけど、話聞くよ」
じゃあ、お前、俺の代わりにクイーンやってよ。喉まで出かかったが、それは飲み込んだ。甲野が奨学生なのに、クイーンをやらなくて済んでいるのは、小湊のお気に入りだからだ。小湊は学園一の権力を持っていると聞いているので、目をつけられたら面倒だ。
「昼食券、一週間分、無くしちゃったんだ」
昼食券は、一ヶ月に一回、奨学生に支給されるチケットだ。学園の食堂で定食に引き換えることができる。無くしたら、翌月まで支給はないので、奨学生は無くさないように気をつけている。
「え? 本当?」
「うん。俺、親いないし、金全然無いし、どうしようかなって……」
綿貫は試すように言ってみた。甲野がどう反応するのか見てみたかったのだ。
「馬鹿だなぁ」
甲野は笑うと、財布を取り出してその中を覗いた。
「お、三枚あった。綿貫、ついてるね」
そう言って甲野は、チケットを三枚取り出した。
「はい、三日分ね。二日分は、瀬川が出してくれるって」
「いやいやいや、そんな事言ってないよ。お前、勝手に言うなって。まぁ、でも、仕方ない。二日分くらいなら奢るよ」
「さすがお坊ちゃま」
綿貫は二人の会話に、渡されたチケットを手に持ちながら、少し呆然とした。
「甲野君はどうするの」
「二日分くらいなら、小遣いで何とかなるはず」
こいつは馬鹿かと思って、綿貫は手をぎゅっと握った。
「ちょ、綿貫、チケット潰れてる」
「甲野君ってさ、奨学生だろ。家族とかいるの」
「いるよ。母親と弟三人に妹一人。貧乏子沢山ってやつ」
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