58 / 133

綿貫碧(わたぬき あおい)4-1

食堂で昼食を食べていると、目の前に人が立ったのでチラリと視線をやった。 「ここ、座って良い?」  目の前には同じクラスの甲野と、瀬川がいた。 「やだ。他の所に……」  いけよ、という前に、甲野は綿貫の前に座った。 「え? 何?」  断られるなど思っていないのだろう。平然と座って飯を食べ始める甲野に、綿貫は呆れてため息をついた。 「聞いた意味ないよね」 「何が?」  その会話を聞いていただろう瀬川が笑う。それが余計に苛立ちを増加させた。 「学校の食堂も、飯、美味いよね」  甲野は美味しそうにモグモグと飯を頬張っている。この甲野という男は、天然だと言えば聞こえが良いが、要は無神経なのだ。 「最近さ、何かあったの?」  甲野が呟くように聞いてきたが、綿貫は聞こえないふりをした。 「元気ないけど、大丈夫? 何かあったら、役に立たないかも知れないけど、話聞くよ」  じゃあ、お前、俺の代わりにクイーンやってよ。喉まで出かかったが、それは飲み込んだ。甲野が奨学生なのに、クイーンをやらなくて済んでいるのは、小湊のお気に入りだからだ。小湊は学園一の権力を持っていると聞いているので、目をつけられたら面倒だ。 「昼食券、一週間分、無くしちゃったんだ」  昼食券は、一ヶ月に一回、奨学生に支給されるチケットだ。学園の食堂で定食に引き換えることができる。無くしたら、翌月まで支給はないので、奨学生は無くさないように気をつけている。 「え? 本当?」 「うん。俺、親いないし、金全然無いし、どうしようかなって……」  綿貫は試すように言ってみた。甲野がどう反応するのか見てみたかったのだ。 「馬鹿だなぁ」  甲野は笑うと、財布を取り出してその中を覗いた。 「お、三枚あった。綿貫、ついてるね」  そう言って甲野は、チケットを三枚取り出した。 「はい、三日分ね。二日分は、瀬川が出してくれるって」 「いやいやいや、そんな事言ってないよ。お前、勝手に言うなって。まぁ、でも、仕方ない。二日分くらいなら奢るよ」 「さすがお坊ちゃま」  綿貫は二人の会話に、渡されたチケットを手に持ちながら、少し呆然とした。 「甲野君はどうするの」 「二日分くらいなら、小遣いで何とかなるはず」  こいつは馬鹿かと思って、綿貫は手をぎゅっと握った。 「ちょ、綿貫、チケット潰れてる」 「甲野君ってさ、奨学生だろ。家族とかいるの」 「いるよ。母親と弟三人に妹一人。貧乏子沢山ってやつ」          

ともだちにシェアしよう!