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綿貫碧(わたぬき あおい)4-3

 体を売ったこと、三沢が激怒していたなと思い出す。あれから、交渉されても金を貰って何かをすることはなかった。しかし、今更三沢に気を遣ってどうするのだと思う。もう三沢とはどうにもならないのだ。今更どうでもいいか、と思って綿貫はそれを握りしめた。 「どうすればいい?」 「いいの? 本当に?」 「うん」  男は手をぎゅっと握ると、嬉しそうに笑った。それに、綿貫は少しだけ嬉しくなる。馬鹿みたいだが、自分と寝られるというだけでこんなに喜んでくれるのだと思うと、必要とされているようで嬉しかった。  結局自分は、どんなに否定してもケツを売って喜んでいるようなビッチだ。人のことを豚と呼んでいるが、自分も同じ豚なのだ。 「部屋、一人で待ってるからさ、9時頃に来てよ。6号棟の205号」 「わかった」  綿貫は三万円をポケットに突っ込むと、帰りにコンビニで何か甘い物でも買おうかと考えた。  授業が終わり、綿貫はコンビニエンスストアに入った。寮が十棟建ち並ぶ中に、コンビニエンスストアは二軒ある。こんな所にあっても儲からないだろうと思っていたが、娯楽がろくに無いので、生徒達は毎日のように通っている。案外儲かるのだろうなと思った。  綿貫は久しぶりにコンビニに入ったと思って浮き足だった。施設にいる頃は頻繁にではないが、小遣いを貰うと、必ずアイスクリームを買いに来た。小学生の頃は、それにカードを一袋、中学生になると暇つぶしになるような本を一冊買った。  施設にいる子ども達は、金がないくせに、金遣いが荒かった。性格もあるのだろうが、金の使い方を教えてくれる大人がいなかったからだろう。貰った金は後先考えずに使ってしまう。しかし綿貫は違った。しゅうちゃんがお金の使い方を教えてくれたので、半分は貯金し、半分は使うという癖がついていた。金は使わないと意味が無いが、使いきってしまっても駄目なのだ。  お陰で、急に何かが必要になった時も、何とか乗り越えることが出来た。寮に入る前に、最低限必要な物を買うことも出来た。しゅうちゃんのお陰だなと思いながら、綿貫はスナック菓子と、コーヒー牛乳を買った。   コンビニエンスストアから出ると、向こうから三沢がやってきた。今日見るのは二回目だと思い、ついている日だなと思いながら、ペコリとお辞儀をした。 「あおちゃん、買い物?」 「あ、はい」 「何買ったの?」  三沢は綿貫からひょいっとビニール袋を取り上げると、中身を覗き込んだ。 「かっわいー。コーヒー牛乳好きなの?」 「はい」  下を向いて、綿貫は頷いた。三沢の顔が見られない。恥ずかしいのと、罪悪感からだ。  三沢がじーっと見てきているのが分かった。思わず綿貫は、ズボンの上からポケットの中身の札をぎゅっと握った。  三沢はそれを見逃さなかったのか、綿貫の手首を握ってズボンから手を離させると、おもむろにポケットに手を突っ込んだ。 「何これー」  三沢は、三万円を見せつけるように、綿貫の目の前に広げた。 「俺が上げた一万円が三万円に増えちゃった? あおちゃん、凄い才能」     

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