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綿貫碧(わたぬき あおい)4-4
綿貫は三沢の手から三万円を奪い返そうとしたが、三沢が手を高々と上げてしまったため、取り返すことが出来なかった。
「来いよ」
三沢の顔つきが一瞬で変わった。脱力した顔つきが憤怒の形相になり、目の奥に炎が灯された。
あ、と思う間もなく、髪の毛をガシリと掴まれ、そのまま引っ張られる。綿貫は三沢の手を掴んだり引っ掻いたりしたが、その手が離れることはなかった。
「離せ!」
「誰?」
「離せ!」
「誰から金、貰ったの?」
綿貫は口を噤んだ。三沢の口調から、そんな話をしたら、相手が危険だと察知したのだ。
「まぁいいや」
三沢はスマートフォンを取り出すと、どこかに電話した。そして、そのまま綿貫を近くのロータリーまで連れて行った。
「離してください。逃げません」
綿貫の言葉に、三沢は近くのベンチまで綿貫を連れて行き座らせた。
「どうするつもりですか」
「あおちゃんさ、本当に馬鹿なんだね」
「はい」
「うーん、前にあおちゃんが言ってたとおり、それが普通で、俺が馬鹿者なのかなぁ」
三沢はそれだけ言うと、あとはじっと黙ったままだった。
しばらくそうしていると、一台のタクシーがロータリーにやってきた。週末でもないのに、こんな場所に何だろうと思っていると、三沢に手を握られて、タクシーに連れて行かれた。
「乗って」
「え? え?」
「早く」
三沢が綿貫の体をタクシーに押し込むと、運転手に住所を言った。
「何なんですか」
混乱してる綿貫に、三沢は表情も無く言った。
「でも、そんなのどうでもいいよね。世間がどうだとか、あおちゃんがどうだとか、もう本当にどうでもいいよ。色々と疲れちゃった」
「え?」
三沢が何を言ってるのか、綿貫には分からなかった。結局、三沢の事など何一つ分からない。
タクシーが30分ほど走ると、1軒の白い家についた。周りには何も無く、その家が1軒あるだけだ。
「これ、俺の別荘。入って」
「嫌です」
綿貫の言葉に構わず、三沢はドアを開けると綿貫の髪の毛をまた掴んだ。
「分かりましたよ。一々、髪の毛掴まないでください」
三沢は手を離すと、後ろ手で鍵をかけた。
「そっち」
目の前には廊下があり、進むと左と右にドアがあった。三沢は左側のドアを指さし、その部屋に入るように指示をした。
「あ……え?」
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