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綿貫碧(わたぬき あおい)6-4
綿貫は、逆らってもどうせ言いくるめられるのだと思い、素直に頷いた。
三沢と綿貫は、以前に行った服屋に行き、服を買うとブラブラと街をうろつく。
「デートみたいですね」
「デートでしょ」
「そうですか」
「そうですよ」
そうか、と綿貫は思い、知らず笑っていた。
「ご飯、何食べようか。予約してないんだ。美味しいところが良いね。何が食べたい?」
「何でもいいです」
「デートしててさ、女の子が何でもいいって言うのは、何でも良くないんだよね。的確に食べたいものを当てないといけないから面倒なんだ。あおちゃんはどう?」
「そんな面倒な事しませんよ。食べたいものがあればいいます」
女の子ってそう言う感じなのかと思いながら、三沢はデートなど数え切れない程しているのだろうと改めて感じた。
「三沢さん、エスコートなれしてますよね。俺、デートなんてした事ないから、よくわからない」
「ヤキモチ?」
「いえ、三沢さんの言う事に一々ヤキモチ焼いてたら、心臓持ちません」
「つまらないの」
そう言って三沢は口を尖らせた。
「俺は、あおちゃんにヤキモチ焼いて貰うの、大好き」
「趣味ワル……」
三沢は声を出して笑うと、スマートフォンで夕飯を食べる店を調べ始めた。綿貫はそれを横目で見た後、目の前にある店に気がついてじっと見た。
どこにでもあるチェーン店のファミリーレストランだ。ガラスの中では、男子高校生のグループが楽しそうに笑っている。
「あおちゃん?」
三沢に名前を呼ばれ、はっとして三沢の顔を見ると、三沢は綿貫の手を取って歩き出した。
三沢は、先ほど綿貫が見ていたファミリーレストランに入っていく。綿貫が驚いていると、三沢は店員に二人と人数を告げて、案内された席に座った。
「三沢さんもファミレスとか入るんですね」
「うん。沢山食べるものあるし、楽しいよね」
三沢がメニューを取り出し、綿貫に見せてきた。綿貫はそれに目を通しながら、ワクワクしていくのを感じた。
「本当に沢山ありますね。実はちょっと憧れてたんです。ファミレスに入るの」
今時珍しいと言われるが、綿貫はファミリーレストランに入った事がない。
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